持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2008-01-01から1年間の記事一覧

「リーディング」という科目と受験指導

どこまで受験に特化するか 「リーディング」という科目は「リーディング」を使用するのが基本である。だが教科書を終えてしまうと、入試問題を解いていくような受験対策色の強い授業となっていくことが多い。公立高校であれば選択科目としてかわいらくしく営…

新カテゴリーを立ち上げます。

皆様、ご無沙汰しております。このところ、更新が滞っております。この間に仕事の環境の変化が若干ございまして、年度の途中、しかも学期の途中ではございますが、高校の非常勤講師をやることになりました。このところ、大学生や社会人、また大学受験生とい…

読解指導と作文指導の非対称性

読解指導での文章のとらえ方と、作文指導での文章のとらえ方は同一のものなのであろうか。違うと思う。読解指導では、どんなに悪文であっても理解できることを目指さなければならない。しかし、人の振り見て我が振り直せ、である。作文指導では、読み手に余…

言語知識について

国語教育においては、文章理解のための文法は記述的であるべきだが、文章表現のための文法は規範的であるべきだと思う。ただし、小学校レベルでは言語規範で表現意欲を過度に抑圧することのないように配慮すべきではあると思う。英語教育においては、文法を…

脱言語の受験小論文・受験現代文

受験小論文や受験現代文は、なぜ言語から離れようとするのか。テレパシーこそが究極のコミュニケーションのあり方だとでも思っているのだろうか*1。「小論文は作文ではないから言語表現にこだわらなくてよい」というのはどういうことなのか。「作文」は「論…

「知識の伝達」と「技能の伝達」

法律系の資格試験対策を主に行っている会社で仕事をしていると、法律科目以外の講義であっても、法律を講義する場合と同様のシラバスデザインが前提となっていることに気付くことがある。例えば、「インプット」と「アウトプット」や、「講義編」と「演習編…

更新が滞っております。

近況 最近、仕事の関係で更新をさぼっております。このブログも仕事の一環として位置づけていますが、原稿料がいただけるわけでもなく、ブログの更新では生活していけません。このため、どうしても、講義料や原稿料がいただける「本業」を優先してしまうわけ…

受験小論文の担い手

「国語」の領域なのか? 大学入試が多様化するにつれて、「小論文」が受験科目のひとつとして認知されるようになった。大手大学受験予備校では「論文科」を設けていて、国語とは別に扱われるようになっている。だが、一般的には国語、とりわけ現代文の講師が…

古文デビューからまもなく1年

何のために古文を教えるのか 自分の関心が、受験教育から言語技術教育にシフトしているのに、なぜか古文を教えたいという欲求も高まっている。なぜだろうか。おそらく、自分の中に教養教育というか、文学教育みたいなものへの畏敬の念があるからなのかもしれ…

学習文法における文型論(その4)

形式による絞り込み 国文法での、動詞述語文・形容詞述語文・名詞述語文の3文型の問題点は、森(2004)が指摘するように主語を不当に重視している点が1つある。これは見方を変えれば、主語だけ特別視して他の項を軽視しているということである。この述語がと…

学習文法における文型論(その3)

英語の5文型からの考察 学習文法における文型論というと、やはり英語の5文型が思い浮かぶことが多いであろう。日本語と違い、英語の場合は名詞述語や形容詞述語であってもBEが必要であるから、5つの文型の述語はすべて動詞を含む。このため、国文法のよう…

認知言語学と学習英文法(その4)

テンスとアスペクト:意味の語り方 認知言語学は、言語学の中でも意味論の研究において大きく貢献している。そのため、学習文法に援用することによって、従来にはない「意味を教える」ということが可能となった。だが、元来目には見えない意味を学習者に提示…

学習文法における文型論(その2)

主語の扱いと文型 文の構造の観点から文型を考える場合、主語の問題を避けて通ることはできない(森2004)。ここで注意しなければならないのは、日本語の記述文法における主語の扱い方と、学習文法における主語の扱い方は別の問題であるということである。言…

認知言語学と学習英文法(その3)

テンスとアスペクト 動詞がコトを表すとなると、その出来事がいつのことなのかを示さなければならない。これを表す動詞の形がテンスである。英語のテンスには現在と過去の2つがある。認知言語学を援用した文法では「未来時制」は認めないのが普通である。ま…

学習文法における文型論(その1)

文型研究の3つの観点 日本語の文型研究は、次の3つの観点があると言われている。 表現意図による文型 語の用法に関する文型 文の構造に関する文型 松井(1963)は、中学校の学習基本文型として1.の観点から文型を設定していくことを提案している。これは文法…

認知言語学と学習英文法(その2)

コトとモノ、事態と言語 名詞は何らかのモノを指し、動詞は名詞が指すモノを関連づけて、あるコトを表す(田中2008)。認知言語学に基づく文法では、こうした形で文法の基本を説いていることになるであろう。こうした説明の利点は絞り込みにある。従来の学校…

認知言語学と学習英文法(その1)

認知言語学の学習文法に対する貢献 認知言語学が学習文法にもたらした恩恵は、意味を明示的に扱えるようになったことである。従来の学校文法では、雑多な規則の暗記が強いられていた。しかも暗記した知識を実際の言語活動で使用する規準を明確に提供する力が…

文章にとって文法とは何か(その6)

コンポジションにおける文論 作文指導においては、内容面の指導に重きが置かれて、文法などの形式面について細かく追求しないことが多いように思う。しかし、正確な文を書かなければ、内容を正確に表現することはできない(森岡1963)。ここでいう正確という…

悪文理解教育

国家公務員採用試験に見る「小論文」試験 国家公務員の採用試験には幹部候補のI種、それ以外の大卒向けのII種、高卒や再チャレンジ向けのIII種の試験がある*1。これらの試験にはいわゆる「小論文」の試験がある。ただし、その内容や評価項目は職種によって…

コア理論についての考察(その3)

分節化と語彙力 前回、「認知言語学による『使える文法』」については特に貢献しているとは言えないと述べた。しかし、これは認知言語学だから話し手に密着した文法になるわけではないということである。実は、認知言語学には「使える文法」につながる知見が…

文法についての雑感

いまこのブログでは、日本語の、文章理解/表現における文法知識の役割と、英文法のコア理論と同時進行でやっているところ。コア理論、というかCPN理論が語彙や文法の学習に与えた影響は大きいと思う。だが、同時にその難解さゆえに多くの教師や学習者に…

コア理論についての考察(その2)

「使える英文法」と認知言語学 「認知言語学による『使える英文法』」ということが言われる。これはいったいどういうことなのだろうか。田中(2008)は認知言語学の前提として「言語は人々の世界のとらえ方を反映している」ということを挙げている。そして、こ…

コア理論についての考察(その1)

「学習文法理論」と「学習文法」 pedagogical grammarに対する訳語として、「教育文法」が阿部(2000)や佐藤・河原・田中(2007)によって用いられるようになってきた。しかし、この用語が問題の所在を曖昧にさせているのも事実である。佐藤らは、「健全な教育…

文章にとって文法とは何か(その5)

文法における文論 文論とは、文の構造を扱うものである。しかし、これが問題である。遠藤(1970)は、文論で扱う文の構造とは、主語・述語・修飾語・接続語・独立語などの文の成分であると言う。これが妥当なのかどうかが問題なのである。文の成分という考え方…

文章にとって文法とは何か(その4)

文法における文章論(続き) 文法における文章論は文章の表現の展開を分析するところから始まった。この場合、句や文の接続部分に着目することになる。形式面で言えば、連用中止法による接続法、接続助詞や接続詞を用いる場合、副詞や指示語の用法などが問題…

文章にとって文法とは何か(その3)

文法における文章論 文章を日本語の文法研究の対象としたのは時枝誠記が最初である。時枝(1950)は、文の集合が決して文章にならないことは明らかであるとし、文章が文章として成立するための法則を明らかにすることが、文法研究における文章論の目的であると…

文章にとって文法とは何か(その2)

文法の範囲 文章表現、あるいは文章理解のための文法の範囲とは、どのように設定すればよいだろうか。時枝(1960)は当時の文法軽視の風潮に対して、文法が国語の読解・作文に役立たないのは、文法自体に問題があるのではなく、文法教育をもっぱら単語論に終始…

文章にとって文法とは何か(その1)

文法の目的・効果 白石(編)(1972)では、文法の目的・効果として、次の5点を挙げている。 文法によって話が正しくでき、文章が正しく書けるようになる。 人の話がよくわかり、文章の意味が正確に読み取れるようになる。 国語の法則的な事実のだいじなもの…

結局、書き方なんて教わっていない。

作文教育のこと ここまで作文や文章表現の指導/学習について見てきたが、率直に言って、「こんなこと教わったことないぞ」ということが多かった。いままで経験してきた作文教育とは何だったのであろうか。ただ、日本語の文章を書くということに真剣に取り組…

文章におけるレトリックとは何か(その11)

修辞 レトリックの第3の要素は「修辞」である。レトリックがこの修辞と同義と捉えられることが多いが、これは弁論術としてのレトリック全体からみればその一部でしかない(澤田1977)。しかも、修辞は美文を追求することに留まらない。場面や文脈に最適な言…