持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2007-01-01から1年間の記事一覧

「評論文」とは何か(その2)

「よい評論の条件」 長谷川(1973)は、「よい評論の条件」として、次のような点を指摘している。 論旨の組みたてや文章が、設定された読者対象の理解と享受に適合している。 明確な主題を持っている。 主題によって素材が吟味され、選択と整理をへている。 文…

「評論文」とは何か(その1)

受験国語と学校国語*1 受験国語、とりわけ受験現代文で取り上げられる文章は、「小説」と「評論」に二分されることが多い。学校教育においても、中学校の学習指導要領では文章を「文学的文章」と「説明的文章」に分類され、高等学校では「文学的文章」と「論…

論理的ということ

論理と言語 沢田(1989)は、人間の言語コミュニケーションでは言語構造を基礎とした論理的操作は働いているのに対し、動物の非言語コミュニケーションでは論理的操作が希薄であるという指摘をしている。この指摘は、言語コミュニケーションにおいて論理が重要…

「現代文」を教える

国語というか、日本語というか・・・ 最近は現代文を教える機会が増えていて、英語だけを教えていた頃と比べると、いろいろ勉強になることがあるなと、つくづく感じる。これは自分がかつて学んでいた現代文は、あくまでも「国語」であったが、今自分が教えて…

ご無沙汰してます。

反省。 一月半ほど、ブログを放置してしまっている。忙しかったり、書こうとしたことがまとまらなかったりと、理由はいろいろあるのだが、ちょっと放置しすぎたと思った。反省、反省。 最近の関心事 最近は、現代文や古文を教えることも多いので、やはり、国…

『「なぜ」から始める実践英文法』を読む

ARNAメソッドの一環としての学習書 『「なぜ」から始める実践英文法』(以下、阿部(2007))は、田中・佐藤・阿部(2006)が提唱する「ARNAメソッド」の実践のなかに位置づけることができる学習書である。「ARNAメソッド」とは以下のようなものである。 「なぜ…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その3)

「を」や「が」を特別扱いすることの問題点 日英語を対照的に扱う学習文法における日本語の助詞の扱いを見てきている。言語運用におけるチャンクの文法的性質を、名詞チャンク・動詞チャンク・形容詞チャンク・副詞チャンクという4品詞に集約させる形で構成…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その2)

今回も断片的です。 「は」「が」「を」を特別扱いする分析 生成文法の枠組みでの日本語研究の中には、「は」「が」「を」を他の後置詞と分けて分析しているものもある。Whitman(1998)は、「は」をCPの主要部、「が」をIPの主要部、「を」をTrP(他動性句)…

日英対照の学習文法へ向けた諸問題(その1)

とりあえず、断片的ですが、書き留めておきます。 前置詞と後置詞 日本語と英語では語順が鏡像関係をなすということが、以前から指摘されている。この鏡像関係の中には前置詞/後置詞の対立も含まれる。 with a pen[前置詞+名詞] ペンで[名詞+後置詞] …

古文

苦手な古文 わけあって、古文の講義をすることになった。もともと、古文は得意ではなかった。高校2年の時、定期試験の時間割がなぜかいつも物理と古典で同じ日になっていたことが原因である。物理が苦手であった私は進級のためになんとしてでも最低限の得点…

文章を書くということ③:樺島忠夫の場合(その3)

書かなすぎと、書きすぎの間に 樺島(1973)によると、文章を書き慣れていない人は、自分に分かっていることは省略してしまったり、簡単に書きすぎてしまったりして、他人が読んでも理解できなくなっていることが多いという。このような場合、文が抽象的な言葉…

文章を書くということ②:樺島忠夫の場合(その2)

書く内容のこと 樺島(1983)は、文章に書く内容を見つけようとするには、次の2つを行う必要があると述べている。 何について書くか(題材)を見つける。 題材について、どんなこと(主題・要旨・論旨)を書くかを見つける。 樺島は1.を「問題発見力」と呼ん…

文章を書くということ①:樺島忠夫の場合(その1)

文章表現の基本姿勢 樺島(1973)は、文章をコミュニケーションのためのものと言い切っている。この立場は、それまでの、作家による文章読本の立場とは一線を画すものであると言える。樺島(1980)では、作家の文章読本では、一般の人が小説以外の文章を書こうと…

助詞「が」について

主語ではなく補語 中島(1987)によれば、現代の日本語における「が」の用法は、英語の主語とはかなり性質の違うものであるという。英語の主語は主題を表し、述語は主語に対する陳述を表す。このため、何かの存在を伝えるような文では主題となる主語がないため…

『たのしい日本語の文法』を読む

基本文の構造 児童言語研究会によって編まれた『たのしい日本語の文法』(以下、児言研1975)では、文をいろいろなもの・ことについての考え(判断)を表すものと定義している。形態上は、文を主語と述語からなるものと分析し、次のような3つの種類に分類し…

『楽しくわかる日本文法』を読む(その2)

文の構造 大久保(1976)では、主部と述語との結びつきが1回出てくる文を「単位文」と読んでいる。 おじいさんは とを あけました。 わかい むすこが すんでいました。 上の例の場合、「おじいさんは」は主文素のみでできている主部で、「わかいむすこが」は…

『楽しくわかる日本文法』を読む(その1)

「文法」の捉え方 大久保(1976:14)は、文法を、「語から句になり、文になり、文と文がつながってさらに1つの文になる。そういう範囲でのコトバの規則のこと」と説明している。中学生向けの説明ではあるが、統語論を中心に据えていることは明らかである*1。…

「プロトタイプ−コア理論」から見たHAVE

HAVEのコアとプロトタイプ HAVEのコアは、X HAVE Yという命題構造で「Xの中にYがある」となり、ひとことで言えば「所有」である(田中1993)。Xは〈空間〉で、Yは〈モノ〉であるから、「名詞+HAVE+名詞」というパターンをとることが多い。主語が〈空間〉を…

「プロトタイプ−コア理論」から見たBE

文法化と意味の漂白化 認知言語学や言語類型論の研究において、「文法化」(grammaticalization)と呼ばれる現象に関心が向けられている。文法化とは、本来は内容語であったものが、徐々に機能語的な表現に転化していく過程である。文法化の過程の中では、「…

「プロトタイプ−コア理論」の展開(続き)

BEの扱い方 BEをコア理論で扱う場合、そのコアは「存在」である。田中らの枠組みに従えば、XとYという2つの変数をとるX be Yという命題構造をなし、「XがYにある」と解釈される(田中・川出1989)。「存在」をコアと考えた場合の論理的妥当性と心理的妥当性…

ミクシィですが・・・

以前から、ミクシィの「英語教育」のコミュニティに参加していたのですが、先日このコミュから退会しました。

「プロトタイプ−コア理論」の展開

プロトタイプ−コア理論 これまで提案してきた、日本語の動詞と結びつけやすい、英語の基本動詞のプロトタイプから意味役割図式を喚起させ、その後学習者が遭遇する用法と照らし合わせながら、徐々にコアへと導いていく考え方を、「プロトタイプ−コア理論」と…

コアの扱い方④

プロトタイプからコアへ すでに日本語の知識をある程度持つ学習者が英語の基本動詞を学ぶときには、対応する典型的な日本語の動詞といったん結びつけて考えると効率的である。例えば、giveという動詞であれば、「与える」という日本語の動詞と結びつけてみる…

コアの扱い方③

ここでの議論は以前のエントリと関連しています*1。 プロトタイプ 言語分析からコアを記述する場合、おおよそ次のような手順を経る。ある単語に100の用例があるとすると、その語義の共通性に着目して20くらいのグループにまとめられる。さらにそのグループ相…

コアの扱い方②

言語転移とコア 外国語学習における語彙の習得で制約となるものが2つある(Jiang 2000)。1つは外国語のインプットの絶対量が不足しがちであることであり、もう1つは母語の概念・意味体系がすでにできあがっていることである。このため、学習者が外国語の…

コアの扱い方①

コアとは何か コアとは、「理屈上、文脈に依存しない(英語でいえば、"context-free"あるいは"context independent"である)意味」のことである(田中1990:21)。文脈に依存しないということは、実際の言語使用の中で見たり聞いたりすることはできないという…

Combination Practiceと受験英語

『英語構文詳解』の立場 受験英語にとって、統語構造の習熟は英文解釈*1に直結するものである。しかし、伊藤(1975:2)が「内容的に難解な文章が例題として取り上げられるため、実際には内容や単語の難しさであるものが構文の難しさと錯覚され、学習が不十分な…

Combination Practiceの再評価

Combination Practiceについて Combination Practiceとは、その名の通り「結合練習」のことであり、初期の変形生成文法の「複合変形」の考え方に着想を得た指導法である。高校生が英語に躓く要因の一つが、中学の英語と比べて統語的に複雑になっているが連な…

会話重視で文法が・・・って?

昔からの話 ミクシィの英語教育コミュあたりでも、「現在の学校英語教育は会話重視で、文法知識の習得に割くべき時間が確保できない状況にある」という趣旨の発言が目に付く。だが、このようなことは私自身が学生時代にすでに指摘していたことだ*1。あれから…

暗黙知

言語研究者と実務家の隔たり 現在、通翻訳や国際取引業務などに携わる人の多くは、その英語力の基盤をいわゆる規範文法を学習することで築いている。こうした人たちは理論言語学者の言語観に対して批判的であることが多い。たしかに、生成文法では、その研究…