Combination Practiceと受験英語
『英語構文詳解』の立場
受験英語にとって、統語構造の習熟は英文解釈*1に直結するものである。しかし、伊藤(1975:2)が「内容的に難解な文章が例題として取り上げられるため、実際には内容や単語の難しさであるものが構文の難しさと錯覚され、学習が不十分なままに終わることが多い」と述べているとおり、実際の読解の中だけで統語知識を身につけていくことは困難であることも少なくない。その点で、伊藤(1975)は実際の英文読解で統語知識を使用する前段階の練習を行う学習書として、ある程度の成果を上げることができるように思われる。
伊藤(1975)に収められている練習問題は、すべていわゆる整序問題である。伊藤(1995)で述べられているように、晩年の伊藤は必ずしも整序問題を英文解釈の前段階の基礎練習とは位置づけていないようである。それよりも、伊藤(1996)に見られるような、文中での品詞の識別を行うことが、文構造認識につながるものと考えていた。確かに、明示的な文法知識を読解などの言語活動に運用していく場合は、基本的な文法用語や文法概念にある程度習熟することは必要である。その意味では品詞の識別も時には有効である。しかし、過剰な識別は必ずしも文の理解には結びつかない。それよりも語の結びつきを意識させる整序問題の方が、有効なのではないだろうか。
整序問題以外の練習問題
Combination Practiceは文と文を結合させる練習である。従来の文法テキストに見られる、「2文を1文に書き換えなさい」という問題はその典型的なものと言える。だが、長谷川(1971)を見る限り、そのような大味なものばかりでもない。例えば、文をthat節、for N to V、N's Vingなどに変換させる練習などもある。入試問題で見られる連立文完成問題などは、この延長線上で捉えられるものであろう。阿部・持田(2005)では各章で練習問題を3種類ずつ配置しているが、このなかの3つめの練習問題には2人の会話を1文にまとめる練習があり、こうした練習問題もCombination Practiceの一例と言える。
2文合成問題や整序問題は、田中(1993)や田中・佐藤・河原(2003)でも見られる。このことは、学習文法をどんなに意味を重視したものにしようとも、統語的な知識を無視することはできないということと、語のまとまりを意味のかたまり(=チャンク)として認識する上でこの種の練習が一定の成果を上げるものであることを物語っている。つまり、一見きわめて旧態依然とした印象を与える合成問題や整序問題が、扱い方次第ではチャンキングの能力を高め、読解において訳読からの脱却を促進させる可能性を秘めていると言えよう。
参考文献
- 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社.
- 長谷川克哉(1971)「Combination practiceとPattern practice」『英語教育』19(12) pp.10-13.
- 伊藤和夫(1975)『英語構文詳解』駿台文庫.
- 伊藤和夫(1995)『伊藤和夫の英語学習法』駿台文庫.
- 伊藤和夫(1996)『英文解釈教室・入門編』駿台文庫.
- 田中茂範(1993)『発想の英文法』アルク.
- 田中茂範・佐藤芳明・河原清志(2003)『チャンク英文法』コスモピア.
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*1:この言葉が何を意味するのかについてはすでに論じているので、ここでは触れない。