持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文法にこだわらない読み方?

スラッシュを入れて読むときの問題点

スラッシュ・リーディング、フレーズ・リーディング、チャンク・リーディング。呼び方はさまざまであるが、英文を語順に即して読む際にスラッシュを入れていくことは、情報処理単位を意識しやすくするためには有効である。しかし、この読み方を効果的なものにする上で解決しなければならない問題が2点ある。

  1. 英文中のどこでスラッシュを入れるべきか。
  2. スラッシュで切った語句のまとまりごとの理解内容を相互に関連づけていくにはどうしたらよいか。

スラッシュを入れる読み方は、長崎(1977)のように、漢文訓読式の訳読から脱却するために文法を過度に意識しないようにする方法として導入されることが多い。だがこの方法の問題点は、実は文法への配慮を欠いている場合に起こりうる問題であるといえる。

断片化と断片連鎖のための文法

スラッシュで切った語句のまとまりは、田中・佐藤・阿部(2006)のいう「チャンク」に相当する。田中らは、チャンク相互の連鎖反応(チャンキング)のダイナミズムを意識させるためには、文の分析作業に終始しがちなスラッシュを入れる活動は効果的ではないという立場を取る。しかし、チャンクの考え方で教材化した長沼・河原(2004)ではスラッシュの入った英文を練習問題として使用しており、この考え方がスラッシュによるリーディングと対立するものではない*1
スラッシュをどこに入れてチャンクとすべきかという「断片化」の規準として、構造言語学の知見は有益である(伊藤1965)。大きな部分から小さな部分へと分析していくIC分析は、断片化に明確な規準をもたらしてくれるものの1つであるといえる。しかしIC分析の問題点が目に見える表面的な形式しか捉えられなかったことが、スラッシュによる分析でも問題となる。
あるチャンクが別のチャンクを喚起する反応、つまりチャンク相互の関係を意識することがチャンキングと呼ばれる「断片連鎖」のプロセスである。ここでの問題は、断片連鎖が何によって引き起こされるかである。これを引き起こすのはチャンク相互の意味関係であり、意味関係の表出である文法関係である*2。こう考えていくと、断片連鎖には構成素相互の「目には見えない関係」を捉える必要があることに気づく。伊藤(1997)などが、直読直解を標榜しながらスラッシュという道具立てを用いることを拒絶し、構造分析を前面に押し出さざるを得なかったのは、そのためである。

参考文献

  • 伊藤和夫(1997)『英文解釈教室改訂版』研究社出版
  • 伊藤克敏(1965)「変形理論の英文理解への応用」『英語教育』13(12) pp.5-7.
  • 長沼君主・河原清志(2004)『L&Rデュアル英語トレーニング』コスモピア.
  • 長崎玄弥(1977)『奇跡の英文解釈』祥伝社
  • 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導:コアとチャンクの活用法』大修館書店.

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英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

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*1:ただし、長沼・河原(2004)では、断片連鎖のほうに重点を置いており、断片化については扱っていない。

*2:ただし、チャンクの内部構造に関しては[前置詞+名詞]のようなものが含まれることから、意味関係というよりも純粋な統語規則と考える方が妥当であると考える。