持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語−読む

2019年センター試験・第3問Aを読む(問1を例に)

問1 When flying across the United States, you may see giant arrows made of concrete on the ground. 文章の冒頭が疑問文になっていて、書き手が読み手に対して問題提起を行うことがある。Whenで始まる文では、Whenの直後が倒置になっていないかを確認し…

受験生のための英語学習書ガイド(その4)

精読のための学習書 本格派のための「英文解釈」道場作者: 筒井正明出版社/メーカー: 大修館書店発売日: 2010/05/01メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (2件) を見る入試英文・精読の極意作者: 丹羽裕子出版社/メーカー: 研究社発売日: 19…

日本語が読めれば、英語も読めるのか

日本語と英語の文章構成 田中(1989)の副題には、「日本語が読めれば英語が読める」と銘打ってある。伊藤(1995)は「文章の書き方に洋の東西でそんなに差があるはずはない」(113)という。この考え方を取れば、英語が読めるようになるには日本語と英語の最小…

生成文法の諸概念と読解文法

ご案内 これも発表予定だったハンドアウトの続きです。 核文 核文(kernel sentence)とは初期理論における概念であり、句構造規則によって生成された終端記号列(terminal strings)に義務変形を適用することで得られる文である(Chomsky1957)。義務変形と…

読解文法から見た生成文法

ご案内 発表予定だったハンドアウトの続きです。 言語能力と言語運用 生成文法は言語能力のモデルを提案する理論である。言語能力モデルである生成文法のモデルを、そのまま文理解や文生成のモデルと見なすことには問題がある(坂本1995)。したがって、生成…

生成文法の知見を読解文法に援用することの有効性

ご案内 この記事は、10月28日に行われる予定でした阿部一英語総合研究所の研究会で発表する予定で制作していたハンドアウトの一部です。研究会は来月に延期になりましたが、せっかくのハンドアウトをひと月も塩漬けにしておくのももったいないので、ここ…

応用言語学としての受験英語⑤

訳読からリーディングへ 訳読は本当に訳読だったのか? 文法訳読法は英語ではGrammar Translation Methodという。translationには「翻訳」という訳語が当てられることもある。 松本(1993)はリーディングを「送信者が文字に託したメッセージを受信者がいかに…

応用言語学としての受験英語④

コミュニケーション能力と学習文法 コミュニケーション能力 Chomsky(1965)は理想化された言語使用者の言語知識を「言語能力」(linguistic competence)と定義している。この言語能力の概念は、先に取り上げたコミュニケーションの概念と照らし合わせてみれ…

応用言語学としての受験英語③

言語習得と記号としての文法 言語習得のメカニズムと文法体系 言語習得は言語形式と意味/機能とのマッピングであると捉えられる。この考え方は決して目新しいものではない。ソシュールの理論を概観するなかで丸山(1981: 83)は、ラングについて「母国語であ…

応用言語学としての受験英語②

学習過程モデルにおける学習文法の位置づけ 学習過程から学習文法を捉える意義 従来の文法指導ではリスト化された知識の羅列として文法が扱われてきた。これはあくまでもリストであり、辞書のように引いて参照するための文法としてはよいが、学習者が学習す…

応用言語学としての受験英語①

ご案内 今日から何回かにわたって、先日行われた阿部一英語総合研究所の勉強会における研究発表のハンドアウトを掲載していきます。 はじめに 従来、日本の英語教育で教えられている「英語」には、「受験英語」「学校英語」「英会話」の3つがあった。最近で…

ちょっと気になること

『英語教育』の古い記事を読んでいたら、気になることが出てきた。といっても、以前から関心を持っていたことでもあるのだが。 訳読をめぐる議論 河上(1967)は、日本人が英語を読む力が弱い理由を、読むという作業が「訳読」に終始しているためであると指摘…

チャンキング文法とシラバス

統語知識の提示 リーディングにおいてチャンキングを行うに先立って、文法知識をあらかじめ提示するかどうかに関して、大学受験対策など、学習期間が限られていて、しかも学習者の母語がある程度完成している状況では、先行提示は有効であると考える。方法論…

チャンキング文法④

複文構造におけるチャンキングと日本語(続き) S+V+thatの場合(続き) S+V+thatの主節表現の中には、中右(1994)のいう「Sモダリティ」相当する表現が含まれている。モダリティの把握はテクストの書き手の意図を把握する上で重要であるから、S+V / that...…

チャンキング文法③

チャンキングと日本語 英語のリーディングにチャンキングの考え方を応用していく場合、学習者は母語である日本語の助けを借りながら訓練していくことになる。文単位での和訳と違い、チャンク単位での和訳では日本語の語順を過度に意識しなくても意味処理が行…

チャンキング文法②

断片化の文法と断片連鎖の文法 深谷・田中(1996)によれば、「チャンキング」には発話単位を生成する「局所的チャンキング」と、発話単位を拡張して情報の追加・修正を行っていく「拡張的チャンキング」があるという。リーディングにおいて局所的チャンキング…

チャンキング文法①

チャンクとチャンキング 英文を構造規則などに従ってスラッシュで切り取り、断片化したものがチャンクである。そしてチャンクごとの理解内容をつなぎ合わせていくことがチャンキングである。このチャンクという視点で学習文法の再構築を試みたのが田中(1993)…

文法にこだわらない読み方?

スラッシュを入れて読むときの問題点 スラッシュ・リーディング、フレーズ・リーディング、チャンク・リーディング。呼び方はさまざまであるが、英文を語順に即して読む際にスラッシュを入れていくことは、情報処理単位を意識しやすくするためには有効である…

温故知新―『奇跡の英文解釈』を読む②

内容スキーマの重視 長崎(1977)に収められている練習問題で興味深いものは、定義が述べられている短い文章を読み、それが何の定義なのかを答えさせる問題である。この練習問題は内容に基づいて配列されている。英文解釈というと、それまでは原(1991)のような…

温故知新―『奇跡の英文解釈』を読む①

隠れた名著 『奇跡の英文解釈』(長崎玄弥著、祥伝社、以下長崎(1977))は受験参考書でありながら、当時の受験参考書とは一線を画す内容となっている。当時の学校文法の枠組みにこだわっていないし、訳読式でもない。だが、同じ年に出た『英文解釈教室』(伊…

情報処理単位としての読解文法④

統語ストラテジーと意味ストラテジー テクスト・談話レベルではない、文レベルの読解ストラテジーには、語彙的なものと文法的なモノがあり、文法的なものにはさらに、統語ストラテジーと意味ストラテジーがある(天満1989)。このうち、統語ストラテジーには…

情報処理単位としての読解文法③

動詞の重要性 読解文法の導入あたっては、薬袋(1995)のように主語よりも述語動詞の認識を優先させているものもある。形式的な観点から言えば、薬袋の主張の通りで、述語動詞(定形動詞)と準動詞(非定形動詞)を識別することは確かに重要である。意味論的観…

情報処理単位としての読解文法②

英文の基本構造の導入 英語の文を基本構造から導入する場合、文が主部と述部から成り立つ、というところから導入されることが多い。しかし、この文法用語がその後使用されることがほとんどない。主部と述部で文を2分する場合、主部の中核を成す語を主語、述…

情報処理単位としての読解文法①

初学者へのボトムアップ・シラバス 英語と語順を異にする日本語を母語とする学習者が新たに英語のリーディングを学んでいく場合、まずは英語と日本語の語順の違いから学んでいくべきである*1。この場合、従来は英語の構文を学ぶことに終始することが多かった…

階層意味論と情報処理単位

階層意味論の考え方 階層意味論(Hierarchial Semantics)とは、中右(1994)が提唱した理論であり、当時の統語理論では説明しにくかった文法現象を説明可能にするために当時主流であった統語論の修正・精緻化という方法に代えて構築したものである。 階層意味…

直読直解の単位

直読直解とは何か 「直読直解」という用語には2つの意味がある。1つは英文を語順通りに読んで理解することで、漢文訓読的な返り読みと対立する概念である(寺島2002)。もう1つは、外国語で書かれた文を母語を介さずに理解する、つまり英語を英語で理解す…

実録・大学受験の読解指導

構文派とパラリー派の狭間で私の選択 前にも書きましたが、私は受験英語における「構文派」と「パラリー派」という対立軸そのものがおかしいと考えています。日本人が母語である日本語とは体系を著しく異にする英語で文章を読もうとする場合、語順を中心とし…

フレーズからチャンクへ

「フレーズ」について 「フレーズ」とは、英語でphraseと綴り、日本語では「句」と訳される。しかし、ここであえて「句」という用語を使わなかったのは、「句」という語が定義が曖昧なまま用いられることが多いからである。以下では、荒木・安井(編)(1992)を…

構文からフレーズへ(続き)

伊藤・山口による英文構造の体系的提示の試み 山口(1997)によれば、伊藤*1と山口は英文読解の基盤を構築する共同作業の中で、それまで品詞論と熟語的な表現が根幹をなしていた英文解釈法を改め、文構造の体系的な提示による一貫性のある方法を確立していった…

『英文解釈教室』の批判的検討―構文からフレーズへ

主語と述語動詞の把握 『英文解釈教室』(以下、伊藤(1997))では、英文を形から考えていく上で始めに行うことは、何が主語で何が述語動詞であるかを確認することであると述べられている。そして主語の把握にあたっては、「文にはじめて出てくる、前置詞のつ…