温故知新―『奇跡の英文解釈』を読む②
内容スキーマの重視
長崎(1977)に収められている練習問題で興味深いものは、定義が述べられている短い文章を読み、それが何の定義なのかを答えさせる問題である。この練習問題は内容に基づいて配列されている。英文解釈というと、それまでは原(1991)のような内容的に難解な文章が素材として扱われるわりには、その内容についての配慮を欠いているものが多かった。しかし長崎は高校生の平均的な知識で理解できる素材を用意しているため、内容的な取っつきにくさで学習者が挫折することが少なくなっている。
さらに、長崎では文法的に平易な素材を扱っていることも注目に値する。これは平易なものから難解なものへと配列した結果である。文法的に難解な文章を扱えば、文法知識を駆使して英文の内容を理解していくことが学習活動の中心となることは避けられない。文法的な難度を抑えることによって、読解における文法解析以外の側面に触れる余裕が生まれる。実際、長崎では、文章の要約の方法も取り上げられている。
文法の扱い
長崎(1977)の方法論は、Miculecky and Jeffries(1998)などのESLのリーディングテキストに近いものであるということができる。しかしそれは良くも悪くも、という意味においてである。従来の学校文法に囚われないという姿勢は先進的であるが、読解文法としての代案を提示することなく、単に文法への言及から逃れようとしているように見えてしまう。文をスラッシュによっていくつかに区切って理解していくことが必要であると説いても、スラッシュをどのように入れるべきなのかを明確にしなければ、学習者が自立して自ら英文を読み進めていけるようにはならない。