持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語の形容詞(その3)

前回の記事

この記事は前回からの続きになります。

ownricefield.hatenablog.com

日本語の形容詞文と対応する英語

今回は日英語の比較対照のお話に入っていきます。日本語の形容詞が-iと-kattaで時制を表し現在と過去を表し分けるしくみを備えているのに対して、英語の形容詞はそのようなしくみを備えていません。形容詞に成り代わって現在(非過去)と過去を表し分ける役割を担うのが繋辞であるbeです。織田(2007: 222)もbeを時制などを表す標識語であると述べています。

英語母語話者向けの日本語文法書でも、日本語の形容詞の言い切りの形を英語の「be+形容詞」に対応づけている説明が見られます。Jorden(1987: 40)では、日英語の形容詞(の語幹)をXとした上で、日本語のX-iが英語のis Xまたはwill be X、英語のX-kattaが英語のwas Xに対応すると説明しています。Akiyama and Akiyama(2012)でも、suzusii(涼しい)をis cool、suzusikatta(涼しかった)をwas coolというように数語の形容詞を例に挙げ、日本語の形容詞の言い切り形を英語の「be+形容詞」

Hudson(1994)でも、Kuruma wa atarashii.(車は新しい)という文のatarashiiはpredicative adjective(叙述形容詞)という働きを担っているとし、この日本文をThe car is new.という英文に対応づけています。Hudson(1994: 81)はさらに、このようなi-type adjective(イ形容詞)は文のmain predicate(主述語)であり、the whole predicate(述語全体)であると述べています。

文型論における形容詞の地位

すでに見てきた通り、日本語の形容詞が述語になる文において、形容詞は述語の中心となる要素です。これが日本語母語話者が学ぶ英文法では「be+形容詞」として現れる形容詞が「補語」という位置づけになってしまうのですから、学習者から見れば直感的に戸惑うのは必然かもしれません。このわかりづらさは隈部(2002)も指摘するところです。

こうした状況に対して、織田(2007)は「補語」という用語が定着している以上、無理に変えるよりも「補語」が叙述的な性質をもつことを周知徹底させれば十分であると提言しています。beの力を借りて述語として成立することを踏まえれば、「補語とは述語の断片である」くらいのことは言えるということになります。

(続く)

参考文献

  • Akiyama, N., and Akiyama, C. (2012) Japanese Grammar. Third Edition. Barron's Educational Series.
  • Hudson, M. E. (1994) English Grammar for Students of Japanese. Ann Arbor: The Olivia and Hill Press.
  • Jorden, E. H. (1987) Japanese: The Spoken Language, Part 1. Yale University Press.
  • 隈部直光(2002)『教えるための英文法』リーベル出版

  • 織田稔(2007)『英語表現構造の基礎』風間書房