言語教師・持田哲郎のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その13)

日本語の文の主題:「は」について

英文法を扱う授業で日本語の文法の話にあまりに多くの時間を割くことは現実的ではない。しかしながら、日本語を母語とする英語学習者にとって必要なことであれば、それを提示することが必要である。こうした条件にあてはまる日本語の文法項目に主題を表す「は」がある。英文法を学習する初期の段階では主語は日本語の「…は」「…が」に対応するとし、両者の違いに触れることはあまり多くない。例えば次のような記述に見られる。

日本語は、主語「~は(が)」の後に、「いつ、どこで」などを表す語句が続き、最後に「~する」という動詞が来るが、英語の文では主語・述語動詞が続いて並ぶことに改めて注目させる。*1

これは学習者が日本語母語話者であるから自ずとわかるであろうと考えられていることと、英文法を教える者が両者の違いをよく理解していないことことが多いことなどが挙げられるが、英語の授業で日本語の文法を大々的に扱うことに心理的抵抗がある教師が多いのではないかとも察する。ここで大事なことは、「は」は主題を表すが、その主題の「名詞+は」は文の主語であることもあれば、主語ではないこともあること*2を生徒に理解してもらうことである。

私が炊事をする
→私は_炊事をする。
→炊事は私が_する。

さらに、日本語では「主題+述語」で文が成立することにも生徒の意識を向けさせる必要がある。そうしないと「XはYである」のような表現をS be Cという英語表現に置き換えようとする誤りを生じさせてしまうおそれがあるからである。このことについて、国語学の文脈では古くから次のようにいわれている。

国語に於いて、主語、客語、補語の間に、明確な区別を認めることが出来ないといふ事実は、それらが、すべて述語から抽出されたものであり、述語に含まれるといふ構造的関係に於いて全く同等の位置を占めてゐるといふことからも容易に判断することが出来る。*3

これを踏まえて翻訳論の立場からは次のような記述が見られる。

(時枝を引用して)要するに、主語も目的語も連用修飾語も、すべては述語を母胎とし、述語を補充するために抽出されたものにすぎず、そしてすべてはふたたび述語によって統括される、というのである。*4

日本語はどうしても必要な場合に語句を補う仕組みになっている*5。これに対して、英語の文は英語では、なくても明らかにわかる場合に語句を省く*6。このため日本語を英語で言い換えるときには語句を補う必要な場合がある*7

ぼくは牛肉だった。 I had beef.
テレビは見る。 I watch TV.
その映画は先月見た。 I saw that movie last month.
きのうはパーティーだった。 We had a party yesterday.

教えるための英文法

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日本語の分析―生成文法の方法

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日本文法 口語篇 (岩波全書 114)

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英語の発想 (ちくま学芸文庫)

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基礎からよくわかる 英作文

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*1:隈部直光(2002)『教えるための英文法』リーベル出版, p. 2

*2:柴谷方良(1978)『日本語の分析』大修館書店, p. 198; 大出晁(1965)『日本語と論理』講談社, pp. 139-140.

*3:時枝誠記(1950)『日本文法口語篇』岩波書店, p. 229.

*4:安西徹雄(1983)『英語の発想』講談社, p. 115.

*5:大出前掲書, pp. 99-100.

*6:大出前掲書, p. 101.

*7:水谷信子(1989)『基礎からよくわかる英作文』旺文社, pp. 10-11