持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その9)

S+V+Cの導入

英語の基本文構造を、最も頻度の高い文型であるS+V+Oで導入し、その後S+V+O+Aへと拡張し、次いでS+VとS+V+Aを導入した。そしてここへ来てようやくS+V+Cの導入となる。中学校の教科書であれば多くの場合真っ先に導入する文型であるS+V+Cをここまで先送りにしたのには2つの理由がある。ひとつは、コミュニカティブな言語活動から切り離した、純粋に統語構造的に易から難へと配列したシラバスによって生徒が感じる見た目の難しさを極力抑えていこうと考えたからである。そして、もう一つの理由が、日本語を母語とする者にとって、この文型が異質なものと感じられるからである。

日本語では、基本文型を名詞文、形容詞文、形容動詞文、動詞文に分けることができ、日本語の動詞文は英語の動詞文に、日本語の名詞文、形容詞文、形容動詞文はすべて英語のコピュラ文(連辞文・繋辞文)に対応する*1。この辺りの解説を、いくつかの文献からの引用で確認していきたい。

動詞はそのFinite FormにおいてPredicative verbとして機能し、述部の主要な語をなすが、I am a boy / He is happy / She is wellなどの文において動詞は完全な意味でPredicative verbとはいはれない。これらのbe動詞はいはゆるCopulaであつて、それ自身何ら意味内容を喚起せず、単に判断作用の記号として機能しているにすぎない。従つて意味からいふとa boy / happy / wellの方が主たる述語なのである。*2

SVCのVCを形成する'copula be+Noun/Adjective'は、その基底においては、進行形の'be+V-ing'や受け身形の'be+V-en'と一脈通ずるものがあることが分かる。進行形や受け身形といった相や態は、すでに現在分詞や過去分詞に組み込まれているが、その命題を文法的文に仕上げるには、人称、数、時制など、文法的文の基本情報を担う動詞定形が必要であり、copula beの導入はそのためであると言ってよい。(中略)そしてそれが、英語母語話者の言葉感覚である。*3

こうしてみると、日本語母語話者には名詞や形容詞(形容動詞)が述語に感じられる文にも英語では動詞が必要であり、これがS+V+Cとして扱われ「動詞型」の体系である文型論に組み込まれていることがわかる。これらの知見を踏まえ、日本語は動詞のほかに形容詞・形容動詞、名詞も述語になれるが
英語は形容詞や名詞だけでは述語になれないことを授業で確認し、英語でこれらの品詞が述語として働くにはBEなどの動詞が必要であることを意識させる。ここでBEの意味に関して、「ある」「いる」という意味があることがあることに言及している。これは、BEの「場にある」から「状態にある」へ展開するという考え方に基づくものである*4

日英語比較講座 第2巻 文法

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文法の原理―意味論的研究 (1949年)

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レキシカル・グラマーへの招待―新しい教育英文法の可能性 (開拓社言語・文化選書)

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*1:黒田成幸(1980)「文構造の比較」國廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座2)大修館書店

*2:中島文雄(1949)『文法の原理』研究社出版, p. 234

*3:織田稔(2007)『英語表現構造の基礎』風間書房, p. 221

*4:佐藤芳明・田中茂範(2009)『レキシカル・グラマーへの招待』開拓社