持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

語順について

「従属節」と日本語

日本語と英語の文構造の違いのなかで重要なもののひとつに、英語では複文が多く用いられるのに対し、日本語では重文が多く用いられているという点が挙げられる*1。亀井(1994)はこれを、英語は立体構造で日本語は平面構造であるという説明をしている。さらに平子(1999)は、日本語には文と文との主従関係がないと言い切る。日本語文法の「複文」の概念は英語の「複文」の概念とはやや異なるようだが、少なくとも英語の従属接続詞を日本語の接続助詞に機械的に対応づけることには無理があることは確かであろう。

語順と和訳

従来の「英文解釈」では、英文を主語・述語動詞・目的語・補語などの文法的要素に区切ったうえで、日本語の語順に当てはめて訳出していくという方法がとられている。文構造解析はチャンキングの前段階における過渡的な言語技術/学習活動と捉えれば、必ずしも否定されるものではない。しかし、文構造解析の結果を機械的に日本語に置き換えていくのでは、横山(1998)のいう「意味理解後訳」を十分に生み出すことができない。
従来の英文解釈で訳出がうまくいかないのは、日本語の語順、すなわち統語特性にある。英語がSVO言語であるのに対して日本語はSOV言語であるといわれる。しかし、英語のSが主語としても文法機能を備えているのに対して、日本語のSは主題という情報構造上の機能しか持たない。にもかかわらず、その主題と述語のあいだにさまざまな語句が生じる。英語では動詞の後に現れる要素のほとんどをこの位置に盛り込まなければならない。樺島(1980)が修飾語が多く長い文は読みにくいことを指摘しているが、従来の英文解釈では訳文としてそうした読みにくい文を生み出してしまうのである(田原2001)。

参考文献

  • 平子義雄(1999)『翻訳の原理』大修館書店.
  • 樺島忠夫(1980)『文章構成法』講談社
  • 亀井忠一(1994)『頭からの翻訳法』信山社
  • 田原利継(2001)『英日実務翻訳の方法』大修館書店.
  • 横山知幸(1998)「訳読と意味理解−「理解なくして訳はできない」か?」『現代英語教育』35(6) pp.38-42.

翻訳の原理―異文化をどう訳すか

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英日 実務翻訳の方法

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*1:複文、重文の定義によっては違った言い方ができるのかもしれない。