持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語の形容詞(その2)

前回の記事

この記事は前回からの続きになります。

ownricefield.hatenablog.com

形容詞と形容動詞(続き)

前回の記事でも見てきた形容詞と形容動詞についてもう少し掘り下げていきます。英語母語話者向けの日本語文法書であるAkiyama and Akiyama(2012)は、Verbal Adjectives(動詞的形容詞)とAdjectival Nouns(形容名詞)という語類を立てています。前者が形容詞、後者が形容動詞に対応します。Verbal Adjectivesは辞書形(=言い切りの形;終止形に相当)において、語末が-ai, -ii, -oi, -uiであることから-i adjectives(イ形容詞)と呼ばれることが多いと説明しています。一方のAdjectival Nounsは名詞のような性質を持ちながら形容詞のような意味を持つ語であるとし、名詞を修飾する際には接尾辞-naを従えるため-na adjectives(ナ形容詞)と呼ばれることが多いと述べています。これは学校国文法とは異なり、形容詞のような意味的性質を持ちながらも語形変化をしないカテゴリーとみなしているわけです。

英語母語話者から見れば、形容詞のようでありながら動詞のような文法的特性を持つ語は奇妙に感じるようです。Hudson(1994)もイ形容詞が文体、時制、肯定・否定によって語形が変化する点で動詞に似ていると述べています。例えば、常体であれば-i, -kattaで現在と過去を表し分け、丁寧体であれば-i desu, -katta desuで現在と過去を使い分ける、といった具合です(Jorden, 1987: 40)。またHudsonは、イ形容詞の丁寧体に用いる「です」と名詞やナ形容詞に用いる「です」とを混同しないようにと学習者に呼び掛けています(Hudson, 1994: 28)。イ形容詞の場合は常体であれば「です」が削除されるのに対して、名詞やナ形容詞の場合は常体では「です」が「だ」に置き換えられるからです。

一方のAdjectival Nounsについてですが、HudsonもAkiyama and Akiyamaも述語を形成するには、copula(繋辞)として「だ」や「です」を加えると説明しています(Hudson, 1994: 38; Akiyama and Akiyama, 2012: 179)。さらに、Akiyama and Akiyamaはこれを英語のbeに相当するものであると述べています。このcopula(繋辞)に関して、デ・シェン(1997)は日本語においては断定の助動詞「だ」であると述べていることも踏まえると、日本語では助動詞、英語では動詞と品詞に違いはあるものの、日本語の「だ(です)」と英語のbeはある程度対応するということができます。ただし、Hudsonが強調しているように、イ形容詞の丁寧体に付く「です」は繋辞とは別の用法であることも意識しておく必要があります。こうした点は英語を学ぶ日本語母語話者にとっても大切であると思われます。

(続く)

参考文献

  • Akiyama, N., and Akiyama, C. (2012) Japanese Grammar. Third Edition. Barron's Educational Series.
  • Hudson, M. E. (1994) English Grammar for Students of Japanese. Ann Arbor: The Olivia and Hill Press.
  • Jorden, E. H. (1987) Japanese: The Spoken Language, Part 1. Yale University Press.

  • デ・シェン, B. (1997)『英文法の再発見』研究社出版