持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語の形容詞(その4)

前回の記事

この記事は前回の続きになります。

ownricefield.hatenablog.com

日本語の形容動詞文と対応する英語

前回の形容詞文に続いて、今回は形容動詞文のお話です。学校国文法の枠組みにおいて、形容動詞は現代日本語で唯一、終止形と連体形が異なっています。外国語としての日本語文法においては、形容詞を「イ形容詞」、形容動詞を「ナ形容詞」と広く呼ばれているわけですが、「ダ形容詞」ではなく「ナ形容詞」となっているところにも注目すべきと言えます。ここには、学校国文法で「形容動詞」と呼ばれているものが外国語としての日本語文法では「ナ形容詞」と呼ばれているという単なる呼称の問題に留まらない問題が存在するのです。

その問題とは、形容動詞文の「だ」は形容動詞の語尾なのか、という問題です。この「だ」については、名詞文と同様のcopula(繋辞)とする分析が見られます。Hudson(1994: 38)ではKuruma wa rippa da.(車は立派だ)という文について、rippaをna-type adjectiveとした上で、naを繋辞のdaに置き換えることで成り立つ文であると分析しています。学校国文法の用語で捉え直すと、「立派だ」を「形容動詞語幹+断定助動詞「だ」」という分析をしていることになります。Husdonはこの日本文をThe car is stately.という英文と対応づけており、日本語の「だ」が英語のbeに対応づけられていることにないます。同様の記述はAkiyama and Akiyama(2012: 179)にも見られます。

こうした分析は、英語教育のための対照言語学という立場の安藤(1986: 76)にも見られます。安藤は形容動詞という品詞を認めずに「名詞+だ」と分析しています。ただし、この「だ」については伝統的な学校国文法(ただし時枝(1950)に倣って)に基づいて指定の助動詞と分析しています。

(続く)

参考文献

  • Akiyama, N., and Akiyama, C. (2012) Japanese Grammar. Third Edition. Barron's Educational Series.
  • Hudson, M. E. (1994) English Grammar for Students of Japanese. Ann Arbor: The Olivia and Hill Press.
  • 安藤貞雄(1986)『英語の論理・日本語の論理』大修館書店
  • 時枝誠記(1950)『日本文法口語篇』岩波書店