持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2005-01-01から1年間の記事一覧

年末のご挨拶

ブログ開設から今日まで 今日で2005年も終わりです。10月下旬から始めたこのブログは2か月あまりの期間にいろいろなことを書き込みました。最初の頃はもっと気楽にコラム的なことを書こうと思っていたのですが、以前自分のHPに書いていたものをこちらに転…

記号現象のモデルと学習文法

伝達の記号論 池上(1992)は、典型的な記号現象として伝達のモデルを示している。そこでは「符号化」(encoding)と「解読」(decoding)という2つの過程によって伝達が説明されている。 「符号化」では、「発信者」(sender)が「コード」(code)や「場面…

記号論と学習文法

シニフィアンとシニフィエ ソシュール(1940)は言語記号が表現と意味を同時に備えた二重の存在であると考え、前者をシニフィアン(signifiant)、後者をシニフィエ(signifié)と名付けた*1。シニフィアンとシニフィエは相互依存的であり、お互いの存在と前提…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境⑥

Going-concern assumption 永続事業仮説(Going-concern assumption)という会計学の概念がある。これは企業は永遠に存続して終焉がないという仮説である。言語教育・言語学習においても学習者をそのように考える必要があるように思われる。もちろん学習者は…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境⑤

「原理なき英語教育」 大津(2005)*1では英語教育の現状を「原理なき英語教育」と呼んで改善策を提案している。大津がこう呼ぶのは次のような理由による。 (学校)英語教育が何をやろうとしているのか分からない。 英語教育の目的が不明瞭である。 英語教育…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境・番外編

「カリスマ」と「バイブル」 今回は理論面での話ではなく、心構えのような話をします。理論面ではないのでですます調です。 すでに述べたように《My Applied Linguistics》という考え方のもとでは、教師(または学習者)が自らの目的を達成させるために、言…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境④

語法研究の捉え方 言語研究には生成文法や認知言語学などの理論研究と言語事実の解明を目指す記述研究がある。日本人の英語教師にとって英語は母語ではないため、自らの言語直観だけで英語の言語知識を捉えることは困難である。このため英語の記述研究の知見…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境③

言語学の捉え方 応用言語学は当然ながら言語を扱う。このため言語学の知見を利用することも当然と言えば当然である。しかし田中・白井(1994)の指摘のとおり、理論言語学と応用言語学とではその目的が大きく異なる。 応用言語学においては言語を学習過程と運…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境②

コミュニケーション論の捉え方 コミュニケーション論の研究領域は多岐にわたるものであるが、一般化した言い方をするならば久米(1993:28)が言う「人間のコミュニケーション行動やプロセスに関するさまざまな現象に関する包括的かつ抽象的な分析や説明」と言…

《My Applied Linguistics》を取り巻く環境①

言語心理学の捉え方 大津(2002:56)によれば、言語心理学とは「人間のこころや脳の仕組みと働きを明らかにしようとする基礎研究」であるという。言語心理学は理論言語学と比べて英語教育に近い立場であり、そのまま応用しやすいと考えがちであるが、大津の定…

《My Applied Linguistics》という発想

研究者としての教師 阿部(1994)は、英語教師が理論と実践の両面に関心をもつべきであると主張する。しかし理論と現実がかみ合うことは経験的にも多くはないため、理論を捨て実践に走る教師が出てくる。それでも阿部は教師が真剣になって一貫性のある授業を英…

読解指導・読解学習の手順⑥

「意味理解後訳」による理解の確認 従来から広く行われている文法訳読法の最大の問題は、学習者が英語のシニフィアンから日本語のシニフィアンに移し替えることに終始し、シニフィアンを捉えようとしない点にある*1。しかし文章全体の理解を確認する方法とし…

読解指導・読解学習の手順⑤

要約 谷口(1992)によれば、要約(summarizing)とは読み手の総合的な能力が要求される認知的な行為で、読みの最終段階に位置するものであるという。また高梨・卯城(2000)は大意の把握がある程度できるようになったらその感覚を確かなものにするために要約文…

読解指導・読解学習の手順④

予備的な読み 従来の文法訳読の問題点はこれまでにさまざまな点が指摘されてきたが、訳読そのものだけでなく、どんな文章なのかも分からないでいきなり訳読を始めてしまうというストラテジーにも問題があると言える。天満(1989)は文章レベルの読解ストラテジ…

読解指導・読解学習の手順③

パラグラフリーディング 谷口(1992)によればパラグラフリーディングとはパラグラフ全体が何を伝えているかをつかむ読み方であると定義している。そのために次の2点を常に念頭に置いて読む必要があると指摘している。 トピックセンテンスがどの文であるか。 …

読解指導・読解学習の手順②

リーディングに関する文献の前提 日本人の研究者の手による、日本人学習者・日本人教師を念頭に置いた英語リーディングの研究所、概説書は多い。これらの文献に共通しているのは従来の文法訳読式の指導・学習を見直す、ないしは文法訳読式に欠けているものを…

読解指導・読解学習の手順①

言語運用過程と言語習得過程 リーディングに関する文献に目を通せば、リーディングのメカニズムが最近の認知科学の成果を踏まえて記述されていることが多い。しかし指導法に関しては精読・多読・速読などに分かれて記述されてはいるものの、「読解力」という…

学習文法における動詞意味論②

動詞の図式構成機能 田中・深谷(1998)は、動詞が事態を構成する対象に役割を割り振り、事態の図式としてとりまとめる働きのことを「図式構成機能」と呼んでいる。ここでいう「図式」とは認知言語学で言われる「命題スキーマ」に相当し、「事態を構成する対象…

難しい言語学の理論が何の役になっているの?

実はこのところの議論は、いわゆる「5文型」を学ばなくても英語の語順が正しく身に付くのかどうかということを問題にしてます。そして日本語で生活している人であれば誰でも、「5文型」なんて気にせずに英語の語順が身に付くかもしれないという結論をとり…

学習文法における動詞意味論①

意味関係からの視点 一般に意味論で言われる意味関係にはシンタグマティックな関係とパラディグマティックな関係とがある。前者は結合可能性、ないしは連語可能性のことであり、後者には同義性、反意性、下位性などが含まれる。 田中(1990)によれば、大人の…

学習文法における句構造規則と文型論②

今回の内容はこちらと関連し、また一部重複します。 3つのひな形に流し込む動詞 前回は生成文法のXバー理論のような統語論のひな形を設定し、大雑把な「3文型」という枠組みを示した。この大雑把なひな形を具体的な文にするには項構造の情報を持った動詞…

学習文法における句構造規則と文型論①

句構造規則から下位範疇化特性へ 従来の5文型を見直す視点としてChomsky(1965)の句構造規則を援用し、そこから安藤(1978,1983)、村田(1984)などの7文型や8文型という枠組みが提案された。しかし生成文法自体は動詞句の規定の仕方を句構造規則を用いる方法…

学習文法の句構造規則⑥

述語動詞を生成する規則 ARCLE(2005)では動詞チャンクには時制・進行相・完了相・態を情報として含み、さらに法助動詞も加わって動詞チャンクが構成されると述べている。Chomsky(1957)では述語動詞の規則を次のように措定している。 Verb→Aux+V Aux→C (M) (h…

学習文法の句構造規則⑤

形容詞句を生成する規則 形容詞句(AP)はまず、名詞の前に置かれるものと、名詞句の後ろに続くものとを区別する必要がある。前者の規則は次の通り。 AP→Deg A Degとは程度副詞のことである。Xバー理論に従えば、Aの後にPPを補部として添えておく方が妥当で…

学習文法の句構造規則④

「節」の提示の仕方 従来の学校文法の用語法でいう「句」と「節」とでは構造に違いがある。文法用語のうえでは両者の区別を廃すとしても、節構造に習熟させることは当然ながら必要である。そうした「名を捨て実を取る」節構造の提示はどうあるべきかを今回は…

句構造規則って何?

句構造規則とはことばが実際に使われるときの語順を支えるルールを、公式のようなシンプルな形で表したものです。こうした公式を利用することで、英語を学ぶときに必要な文法知識をコンパクトにまとめることができます。大人が英語を学ぶ場合には、これによ…

学習文法の句構造規則③

学習文法に「句構造規則」を導入する理由 「生成文法は学習文法に貢献するのか」という観点でこれまでの議論を展開してきたが、句構造規則が学習文法のなかでどう位置づけられるのかを明らかにしておかなければ、こうした議論も無意味になるのでここで一通り…

専門的な文法書を読み解く道しるべ

英語の教師や研究者であれば、英文法の専門書にあたることも少ないが、自分の専門外であったり、過去に学んだことがうろ覚えであったりしてそうした専門書に書かれていることが今ひとつ理解できないことも多い。そんなときにおすすめなのが本書である。伝統…

英文法入門書の新しい形

本書は実質的には『発想の英文法』(アルク)『チャンク英文法』(コスモピア)の枠組みを継承する文法書である。しかしこうした一連の著作のなかでもっとも学習者の目線に近いところで解説してくれているのが本書である。頭にすーっと知識が入ってくる感覚…

『発想の英文法』の続編

本書は著者のひとりである田中茂範先生による『発想の英文法』(アルク)の続編として位置づけられる。ただ文法知識の扱いがより実践的にさせつつも、従来の学校文法の枠組みからの橋渡しがしやすいように配慮されている。そして本書が従来の類書と最も異な…