持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

読解指導・読解学習の手順③

パラグラフリーディング

谷口(1992)によればパラグラフリーディングとはパラグラフ全体が何を伝えているかをつかむ読み方であると定義している。そのために次の2点を常に念頭に置いて読む必要があると指摘している。

  • トピックセンテンスがどの文であるか。
  • トピックセンテンスと他の文との関係がどうなっているのか。

この2点を押さえながら文章を読むにはパラグラフの構造に関する知識が必要であり、かつその知識を適切に使えるようになることが要求される。

パラグラフの構造・文章の全体構造の学習

文構造に関する知識と並んで形式スキーマの格となるのがパラグラフや文章全体の構造に関する知識である。文構造において日本語の「名詞+名詞+動詞」と英語の「名詞+動詞+名詞」などを比較しながら提示するのと同様に、文章構造においても日本語と英語を比較しながら提示する方がよいと思われる。
こうした指導は文レベルの理解がある程度スムーズに行えるようになった時点で行うべきではあるが、文レベルの理解に完璧を求めてパラグラフや全体構造に学習者の意識を向けるのを先延ばしにしてはならない。また文章の仕組みのすべてを一度に提示する必要はなく、その時に読む文章によって必要なところから扱っていけばよいであろう。例えばMikulecky and Jefferies(1997:86)は初学者向けの教材であるが、パラグラフに関して次の2点のみを強調している。

  • A good paragraph has one topic.
  • All the sentences are about that topic.

またMikulecky and Jefferies(1997)にも見られるように、パラグラフの構造に習熟するためには必ずしも最初から文章を用いる必要はなく、単語を並べて上位語・下位語の識別を行う練習を通じてパラグラフに含まれる主題(topic)に対する意識を高めることも可能である。これに加えて結束性(cohesion)と呼ばれる文と文の前後関係を意識させることも必要で、特に談話標識(discourse markers)と呼ばれる接続語の働きを知ることは不可欠である。これらの知識を学習者が活用することでパラグラフの中から自らトピックセンテンスを見つけて読んでいくことが可能になる。
高梨・卯城(2000)にはパラグラフに関する知識を次の順序で導入した例が挙げられている。

  1. 主題に関する知識
  2. 文の結びつきに関する知識
  3. パラグラフの展開に関する知識

このことから分かるのは、トピックセンテンスを見つけることさえできればパラグラフリーディングは一応可能であり、3のパラグラフの展開に関する知識は帰納的に提示してもよいということである。

パラグラフリーディング学習書の問題点

高橋(1995)や橋本・神保・石田・Reniker(1989)などのように、パラグラフの展開を分類し、そのパターンごとに練習問題を配列する手法をとる学習書は多い。しかしこの種の学習書では、学習者が教材を離れたときに自分の読んでいる文章がどの展開法によるものなのかを見極める方法を身につけることができない。文法訳読においては文法知識を読解に役立たせる役割を英文解釈参考書が担っていたが、パラグラフリーディングにおいてはパラグラフに関する知識の使い方を示した学習書は少ない。
例えば高橋(1995:89)は次のような事実を指摘している。

情報提供を内容とするテキストでは、主題となる語句を含む主題文(topic sentence)がパラグラフの最初に来るケースが圧倒的に多くて、60〜90%に及んでいる。

ここから各パラグラフの冒頭の文に意識を向けることが重要であると唱えるのだが、これではトピックセンテンスがパラグラフの冒頭にない場合にどう対処したらいいのかが分からない。パラグラフリーディングができるいうになるには学習者が自らトピックセンテンスを発見できなければならない以上、トピックセンテンスの出現頻度を示すだけでは何の解決にもならない。*1

参考文献

*1:ただし試験対策においては過去の出題された問題の傾向を分析したうえでこうした指摘を行うこともあり、私自身もそのような指導を行うことがある。