持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

読解指導・読解学習の手順②

リーディングに関する文献の前提

日本人の研究者の手による、日本人学習者・日本人教師を念頭に置いた英語リーディングの研究所、概説書は多い。これらの文献に共通しているのは従来の文法訳読式の指導・学習を見直す、ないしは文法訳読式に欠けているものを補うという視点に立って書かれていることが多い。しかし現在の問題は文法訳読を経験していない学習者にどこから読解指導を始めたらよいのかということにある。

文法訳読の学習を効率化する

高橋(1995)は従来の学校での英語教育が文構造の解明に終始していて、このため脳が翻訳作業をし始めた段階で学校の英語教育が時間切れになってしまうと指摘している。これは横山(1998)が指摘する文法訳読から直読直解への移行過程と重なる。門田・野呂(2001)は読解学習の初期の段階においては第二言語の読解において母語の言語能力に依存する内的翻訳(mental translation)という過程を経るとしている。
このことから高校生以上の学習者を対象とする読解指導においては文法訳読的なものから出発すること自体は決して非効率なものではないと言える。ただしそのために費やす学習時間をできる限り短縮できるように学習法・指導法の効率化を図り、文文法以外の形式スキーマに習熟し読解に活かせるようにしたりといった、その先の学習活動にも十分な時間がかけられるようにしなければならない。門田・野呂(2001)などが指摘するように読解過程そのものはトップダウンボトムアップの双方が関与する相互作用的な過程であるのは確かであるが、読解指導・読解学習のプロセスに関してはある程度ボトムアップでよいのではないかと思われる。

品詞・句構造規則・文型の学習

文法訳読の学習は文法知識を学ぶことから始まる。

  • 基本4品詞(N・V・A・Adv)に習熟させる。
  • NP/VP/AP/AdvPを生成する句構造規則を示す。
  • 句構造規則を提示していくなかで4品詞以外の品詞の機能を順次理解させる。
  • おおまかな「3文型」を提示して英文の基本構造を理解させる。
  • 動詞の意味から関与する項を意識させ3文型に当てはめていく。*1

動詞の意味から関与する項を意識させることによって、語順に即した理解をしていく際にVに後続する要素を予測することができるようになる。また句構造規則は、これ自体を暗記させるのではなく提示して理解した後は実際の英文に当てはめて英文理解の手段として利用できることに気付かせることが大切である。

短文による文構造解析・文理解の実践

先述の通り、語順に関わる文法知識に関しては規則の暗記を強いるのではなく、それを実際の英文理解に利用していくことによって定着を図っていくことが大切である。短い文を使って文理解の実践をしていく際には、従来の英文解釈で利用されているようなS/V/O/Cなどの記号を併用してもよいし、文構造や修飾関係を意識させるために括弧や矢印などを用いてもよい。ただし留意しなければならない点が2つある。

  • 常に「文頭から文末」への順送り理解を意識させる。
  • 句構造規則により「語のまとまり」を意識させる。

この2点に留意することによって、SやVなどの記号を振るラベリングからの脱却を促すことができる。なおこの段階では和訳を行うべきであり、教室でも独習でもできれば紙に書き出すべきである。

スラッシュによるフレーズリーディングの実践

短文による文理解は徐々に長めの文章で行うようにしていく。句構造規則を利用して文頭から文構造解析を行っていくにつれて「語のまとまり」が意識できるようになったら、そのまとまりごとにスラッシュを入れ、フレーズごとの理解ができるように練習していく。この段階で語の働きを考えながら1語1語分析していた読み方からスラッシュで区切ったフレーズ(チャンク)ごとの読み方に変わっていくようになる。

参考文献

  • 高橋潔(1995)『英語リーディング上達法』研究社出版
  • 横山知幸(1998)「訳読と意味理解−「理解なくして訳はできない」か?」『現代英語教育』35(6) pp.38-42.

*1:「3文型」と動詞意味論については「学習文法における句構造規則と文型論①②」「学習文法における動詞意味論①②」をそれぞれご参照下さい。