持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

読解指導・読解学習の手順①

言語運用過程と言語習得過程

リーディングに関する文献に目を通せば、リーディングのメカニズムが最近の認知科学の成果を踏まえて記述されていることが多い。しかし指導法に関しては精読・多読・速読などに分かれて記述されてはいるものの、「読解力」というものがどのように習得されるかに言及されているものは見あたらない。そうした前提がない以上、精読・速読などのうちどのような読み方をまず学ぶべきなのかも具体的に示されてはいない。つまり、リーディングそのもの過程については論じられることが多いが、リーディングがどのようにして可能になるのかという過程については論じられることが少ないのである。*1

目的重視の読解指導・読解学習

近江(1996)が言うように、読み手は自らの目的に沿った読み方を選択するという考え方に立てば、EFL環境にいる日本人にとっては必要なときに必要な読み方さえできれば良いわけで、あらゆる読み方を片っ端から身につけることは効率的ではない。日本において英語のリーディングが受験英語という文脈で語られることが多かったのは、「入試問題を解くため」という目的が日本人にとって最も大きいものであったからである。
学習者のニーズに応えた読解指導を考えた場合、入試や各種資格試験などの対策を除外すると残るのはESPとなる。しかし寺内(2002)によればESPとは特定のディスコース・コミュニティー(専門家集団)が明確で具体的な目標を持って使用する英語であり、想定される学習者は中・上級レベルである。これでは明確な職業意識をもたない初級レベルの学習者である中学生・高校生には教えるべきリーディングがないことになってしまう。*2

高校生以上の読解指導の目標

鳥飼・木村(2001)では中学や高校の前半までの英語教育はBISC(Basic Interpersonal Communicative Skills)に重点を置き、その後徐々に、読み書きを含めた知的活動を可能にするCALP(Cognitive Academic Language Proficiency)へと移行していくべきであると提案している。分かりやすく言えば中学英語は会話中心で高校になってから読み書きにも比重を置くようにするというものである。この場合、本格的な読解指導は高校から始めるということになる。早坂・戸田(1999)は高校生以上の学習者を想定した場合、言語事実をランダムに提示したり単純な反復練習を行うよりも体系的な枠組みによって学習者の思考力に訴える方が効果的であると指摘している。この立場に立てば「語彙知識や文法知識、パラグラフや文章の全体構造に関する知識である形式スキーマを形成しリーディングに利用できるようにする」ということを、リーディング指導の当面の目標として設定することが可能であろう。これは大きく分けると次の2つの項目になる。

  1. 読解力を支える形式スキーマを構成する言語知識の習熟
  2. 実際の英文読解での形式スキーマの利用

参考文献

  • 早坂高則・戸田征男(1999)『リストラ学校英文法』松柏社
  • 近江誠(1996)『英語コミュニケーションの理論と実際』研究社出版
  • 寺内一(2002)「日本におけるESPの現状と展望」『英語展望』109 pp.26-33, 42.
  • 鳥飼玖美子・木村松雄(2001)「コミュニケーションのための英語教育とは」『英語展望』108 pp.24-27. 23.

*1:何か良い文献があればご一報いただければ幸いです。

*2:専門高校・職業高校ではそれぞれの専門性にあった指導ができるであろう。商業高校ならば英文会計の基礎を教えてもよいし、工業高校ならテクニカルライティングによって書かれた文書の読解などの指導が考えられる。