持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2006-01-01から1ヶ月間の記事一覧

日本語文法の概説書

学校の国語の授業で教わった以外の日本語文法を知らない。でも日本語文法を知らないと困る立場の人におすすめ。日本語の文法研究がどのように行われているかを知ることができる1冊である。

文法用語について

文法用語の増殖 学習文法理論ではさまざまな文法学習に対応できるような記述と体系化が求められる。明示的な文法指導において、ある程度の文法用語の使用は避けられない。しかし明示的な文法指導であっても、文法用語は少ない方がよい。若林(1990)には、語学…

教室での実践に即した学習文法論

具体的な文法指導への言及は断片的ではあるが、それでも著者の持つ英語学の知識を背景に実践的かつ体系的な学習文法のあり方を説く研究書として一読の価値がある。

学習文法とシラバス・デザイン

構造シラバスと概念・機能シラバス 構造シラバスでは、学習者が文法構造を1つ1つ累計的に学習することで、目標言語を習得していくと考えられている。このシラバスでは一般的に、言語によって伝えられる意味や社会言語学的な知識は重視されない。構造シラバ…

学習文法理論と4技能

言語理論とproduction-oriented/recognition-oriented 文法学習を自己目的化した「文法のための文法」ではなく、「話す」「聞く」「書く」「読む」の4技能に結びつけていくためには、それぞれの技能の中で文法能力が身に付くような配慮と、各技能に結び付く…

基礎英語力低下という問題

英語力低下の現状 小野(2006)によれば、日本人の基礎英語力の低下が進んでいるという。小野は英語検定協会によるプレースメントテスト結果を示している。それによると、標準的な授業時間数の高校2年生の場合、平均英語力は英検3級レベル、大学生に関しては…

応用言語学としての学習文法理論

原理なき援用の危うさ 理論言語学と応用言語学では目的を異にするため、それぞれを支える文法理論もまた構成を異にするはずである。馬場(1992)やCelce-Mucia and Larsen-Freeman(1999)が指摘するように学習文法における言語記述の方法そのものは折衷的でよい…

応用言語学の担い手とは誰か?

生成文法と語学教育*1 中村(2006)は、生成文法の研究によって得られた言語事実が英文法教育に積極的に活かされていないことを指摘している。その理由として、を研究者側の要因と教師側からの要因をそれぞれ次のように指摘している。 研究者側:純粋に生成文…

「反理論言語学」としての学習文法

言語理論研究への同調と逆行 生成文法の研究が進展したことによって、言語習得と言語運用のための理論である応用言語学は、そうした進展に対して同調と逆行という相反する対応を同時にとることが要請されている。同調とは、普遍文法の解明が第二言語獲得研究…

Gruberの文法

標準理論に対する代案 Gruber*1は特定の語彙形式にこだわらずにその背後にある意味的な共通性を明らかにしようとした。この考え方は後の生成意味論の源流となった。 The caravan crossed the desert. The caravan went across the desert. 1.と2.は同義的で…

生成意味論と学習文法

生成意味論における意味表示 Lakoff(1976:50)では生成意味論(Generative Semantics)を提唱するいくつかの理由を述べている。そのうちの1つが次のようなものである。 One is the intuition that we know what we want to say and find a way of saying it.…

おわび

最近、大して暇でもないのに、難しいテーマを扱っているため、毎回の議論の内容に不整合が見られると思います。いくら「覚え書き」とは言え、見苦しい印象を与えるのはもちろん本意ではありません。何卒、事情をご高察のほど、よろしくお願い申し上げます。

学習文法における命題構造

学習文法のグランドデザインを考えていく上で、命題構造は文型論に関わる重要な問題である。従来の学校文法では品詞論から文型論へ導くことが多かったが、佐々木(1973)、伊藤(1979)、山口(1986)などの学習参考書での試みから分かるように、「語」よりも「文…

学習文法のグランドデザイン⑧

理論言語学を援用する理由−従来の枠組みはダメなのか? 理論言語学における文法理論は学校文法とは別物であるのだから、学習文法に理論言語学の知見を盛り込まなくてもよいのではないかという声が聞かれる。この疑問に答えるには現状の学校文法における品詞…

学習文法のグランドデザイン⑦

形式と意味の対応 言語習得は言語形式と意味とのマッピングであり、コミュニケーションの前提となる意味作用もまた、シニフィアン(=形式)とシニフィエ(=意味)の結合の過程を含む。このため言語習得・言語運用を対象とする応用言語学の一部をなす学習文…

文法を減らすために文法を増やす。

一般の人からすると、外国語を学ぶとき文法をやることは苦痛でつまらないものというイメージがあるかもしれません。なぜ文法学習が苦痛なのかというと、文法を教えている教師が文法をよく知らないからなのです。文法をよく知らないから噛み砕いて教えること…

学習文法のグランドデザイン⑥

統語論と意味論−生成文法を検討する 安藤(1983)は、統語形式の意味を考えていく場合に、深層構造のみならず表層構造の情報も関与する解釈意味論(interpretive semantics)の立場をとることが最も妥当であると述べている。しかし安藤はその理由について触れ…

学習文法のグランドデザイン⑤

形式と意味 Jespersen(1924)では、話し手の言語過程を概念(notion)を統語(syntax)によって形式(form)として表現する過程、聴き手の言語過程を形式から統語によって概念を得る過程としてモデル化している。これはすでに見てきたコミュニケーション論や…

学習文法のグランドデザイン④

理論言語学の援用 理論言語学と応用言語学では目指すところが異なることについてはすでに述べたとおりである*1。理論言語学の知見を応用言語学に援用する場合とは、次の2つが考えられる。 言語学習・言語運用を全体から捉えるときに言語学を援用する場合 文…

学習文法のグランドデザイン③

教師のための参照用文法 Corder(1988)は外国語教師のための文法について論じている。Corderによれば、外国語教師のための文法書とは、母語話者が使用する文法書としての側面と教授用資料としての側面が求められるという。しかしそうした目的で書かれた文法書…

英米の文法書とは違った独自の視点で英文法を捉える。

英文法の専門書というのはどうしても英米の研究者や教師の手によるものに頼りがちだが、彼らにとっては、日本語話者が英語を学ぶときの困難が十分に「想定の範囲内」に収まっているとは言い難い。本書は決して包括的ではないが、日本語を常に意識しながら、…

学習文法のグランドデザイン②

議論が前後しています。もともと覚え書きのつもりで書き始めたものですので、そうした事情をご高察いただければと思います。 文法の位置づけ Thornbury(1999)では文法指導と言語教授法の関係が簡潔にまとめられている。文法指導を非常に重視する文法訳読法(…

学習文法のグランドデザイン①

文法の3つのレベルと3つの側面 Celce-Murcia and Larsen-Freeman(1999)は、文法を明示的に教えるか否かに関わらず、次の3つのレベルで文法を見ていく必要があると指摘している。 subsentential level (morphology) sentential level (syntax) suprasenten…

認知言語学

「認知言語学」とは何か 認知言語学には理論的・方法論的に確立した単一の枠組みは存在しない*1。田中(1992)は、認知言語学の目標を次の3つにまとめている。 心的表象された言語の特性を明らかにすること 言語の心的表象の過程の仕組みを明らかにすること …

無形資産としての言語能力

この国で本当に英語ができるようになりたいと思っている人は少数派である。資格試験が自己目的化し、英語力が付くかどうかに関係なく受かるかどうか、またはスコアが上がるかどうかということしか関心を持たずに学習する人が多い。このような状況では、優れ…

新年のご挨拶

みなさま、あけましておめでとうございます。本年もこのブログをよろしくお願い致します。