持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習文法とシラバス・デザイン

構造シラバスと概念・機能シラバス

構造シラバスでは、学習者が文法構造を1つ1つ累計的に学習することで、目標言語を習得していくと考えられている。このシラバスでは一般的に、言語によって伝えられる意味や社会言語学的な知識は重視されない。構造シラバスは教授・学習計画が容易であるという利点がある。日本の学習指導要領も基本的には構造シラバスである。
これに対して、言語の意味や機能によって学習内容を配列したものが概念・機能シラバスである。このシラバスは、言語の正確な使用だけでなく、社会的に適切な使用を追求していくところに特徴がある。小寺(1996)は概念シラバスを言語材料の指導順序や配列順序を過度に意識しなくてもよいシラバスであると見ている。これに対して岡田(2001)は概念・機能シラバスを意味・文法範疇と機能範疇を設け、これらを具現化する形式を提示するシラバスと捉えている。岡田の見方に立てば、概念・機能シラバスにおいてもそれなりの指導順序や配列順序を検討していくことが必要になる。

シラバス・デザインと学習文法理論

シラバス・デザインは他にもあるが、構造シラバスと概念・機能シラバスは言語知識を言語学的基準に従って学習していくシラバスであるため、文法知識の記述の質が最も問われやすいと言える。これはコミュニケーション過程のモデルから見た場合、構造シラバスは解読(decoding)のシラバス、概念・機能シラバスは符号化(encoding)のシラバスであると捉えることができる。学習文法理論はどちらの場合にも利用できる記述・体系化を目指さなければならない。
しかし、学習文法理論はメタ言語によって言語化しなければならない。このため学習文法理論の体系化自体が言語の線条性に束縛される以上、体系化において2つのシラバスに平等に配慮することはできない。Leech and Svartvik(1994)やJackson(1990)などは概念で項目を建てて言語知識を知識を配列している。学習者向けの「学習文法書」であれば目的によって形式順と概念・機能順のどちらかの配列を決めて編集すればよいが、教師が1冊持つべき学習文法理論の研究書の場合はとりあえずどちらかに決めて配列せざるを得ない。ここで一般的な結論を下すことは難しいが、日本人学習者に英語を教えるための体系化であるならば、構造的な配列を第一とし、概念や機能からのクロスレファレンスを充実される方針が望ましいのではないかと思われる。その方が多くの教師にとって利用しやすいし、多くの教師に利用されなければ英語教育を変えていくことはできないからである。

参考文献

  • 伊東治巳他(1993)「外国語(英語)教育シラバスの理論と動向」『英語教育』42(8) pp.71-97.
  • Jackson, H. (1990) Grammar and Meaning. London: Longman
  • 小寺茂明(1996)『英語教科書と文法教材研究』大修館書店.
  • Leech, G. and Svartvik, J. (1994) A Communicative Grammar of English, 2nd ed. London: Longman
  • 岡田伸夫(2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社.


英語教育と英文法の接点

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