持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習文法理論と4技能

言語理論とproduction-oriented/recognition-oriented

文法学習を自己目的化した「文法のための文法」ではなく、「話す」「聞く」「書く」「読む」の4技能に結びつけていくためには、それぞれの技能の中で文法能力が身に付くような配慮と、各技能に結び付くような文法の記述が必要である。前者は実際の教室での学習や学習者向けの教材などに反映すべきであり、後者は教師向けの指導基盤としての学習文法理論に盛り込む必要がある。
早坂・戸田(1999)は生成文法を積極的に学習文法に取り入れ、かつ学習文法として一貫性のある体系化を目指している。その早坂・戸田でも生成文法を修正したproduction-orientedな文法を構築することは見送ったと述べている。その理由をリーディングに時間と労力をかけている実情に見合うものにするためとしているが、ここには誤解がある。
戸田・早坂は学習文法をfewer rules, wider applicationに徹するべきだと主張しているが、このfewer rules, wider applicationこそが、Chomsky(1965)がいう生成文法の当初の「生成的」(generative)の意味である。生成文法の第一の研究目標は言語能力(linguistic competence)の解明であるから、生成文法自体が文産出の理論というわけではない。
平野(1986)は生成文法は分析文法としての役割も果たすことができると指摘している。平野はその理由については明らかにしていないが、Chomskyが「文を生み出す能力」を言語能力とみなしていたことと重なり合うものと言える。
原則的には、理論言語学は4技能に対して中立である。したがって応用言語学としての学習文法理論では、各技能に役立つ文法にするにはどう記述すればいいのか、ということを考えなければならない。いかなるシラバス・デザインにも利用できる文法知識を体系化することが学習文法理論の目的なのである。

参考文献

  • Chomsky, N. (1965) Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press.
  • 早坂高則・戸田征男(1999)『リストラ学習英文法』松柏社
  • 平野清(1986)『実用生成英文法』開文堂出版.