持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2006-01-01から1年間の記事一覧

暮れのご挨拶

まずはお礼から いつもブログの拙稿をお読みいただき、ありがとうございます。acやedドメインからのアクセスが着実に増えており、「同業者」の方々にこのブログが根付きつつあることをうれしく思っております*1。 今年の反省 今年はPC本体やブラウザの不具…

日本語から学ぶ英文法を考える(続き)

導入のあり方 日本語との対比から英文法を学んでいく場合、国語教育の中で帰納的に国文法を学び、英語教育の中ではその国文法の知識に対応づける形で、ある程度演繹的に英文法を学ぶことができれば効率的であると思われる。しかし、国語教育でそのような文法…

日本語から学ぶ英文法を考える

文の構造 従来の学校文法では、文は主語(もしくは主部)と述語(もしくは述部)から成り立ち、述部の形式が大きく分けて5通りある、という考え方をとってきた。この枠組みでは、文の構造において主語、そして目的語を他の要素(副詞句)とは違う、特別な要…

教師のレディネスなど

今回は、論文調の文体ではなく、個人的な語りを・・・ まあ、ブログですから(笑) 日本語についての知識不足 前回までの学習国文法論のなかでときどき言及している森氏の論文に、文法教育の再構築が進まない要因の1つに「教師のレディネス」が挙げられてい…

学習国文法と学習英文法②

文法の位置づけを考える 学習英文法の内容を再点検するうえで、三宅(1978)はその留意点を挙げているが、そのうちの1つとして、英語教育全体の中で文法がなしうることとなしえないことを明確にしておく必要があることを指摘している。この留意点は日本人学習…

学習国文法と学習英文法①

前回のエントリーの反響が多かったので、それに関連する内容で展開していきます。 理論文法と学習文法の区別 全国大学国語教育学会(編)(1954: 61-62)には、「ことばのきまりの学習指導」に関して、次のような記述が見られる。 文法学は一つの体系を持った…

「英文法学習を潰す国文法」という問題

ちょっと古いアンケートから 愛原(1981)には、中学校の国語教師が生徒に対して行った、文法教育に関するアンケートの結果が引用されている。まず「ことばのきまり」についての学習、すなわち文法学習の好き嫌いに関する質問の回答が挙げられていて、3学年と…

英総研での研究発表について

ご案内 いつもブログをご覧いただきまして、誠にありがとうございます。現在、阿部一英語総合研究所(埼玉県朝霞市・阿部一所長)が主催する勉強会/研究会で研究発表をしておりますが、その内容は学習文法(pedagogical grammar)に関するもので、このブロ…

学習文法における統語論④

文の名詞化/形容詞化/副詞化 変形規則によって生成した統語形式を句構造規則に組み込むには、文を名詞、形容詞、副詞にそれぞれ転換させることが必要である。この転換のプロセスを段階的に図示することで、学習者は統語形式相互の関連が捉えやすくなる。段…

学習文法における統語論③

学習過程と統語論 斎藤(1971)が提唱した「言語能力練習」と「言語運用練習」の区別は、言語の正確さを身につける上では重要である。前者の具体的な方法としては、機械的なドリルが依然として有効である(阿部2006)。統語知識を身につけていくには、こうした…

学習文法における統語論②

文を構成する要素 単文の基本構造が、S+V(+X+X)だとすると、これらの要素を展開する規則を明らかにする必要がある。 S→NP X→NP/AP/ADP ここで「句」という概念をどう扱うかが問題となる。この問題と学習文法に句構造規則を用いることの有用性については、以…

学習文法における統語論①

単文の構造 生成文法を学習文法に援用する試みには、核文を重視するものが多く見られた。これは複雑な構造を持つ英文を核文に還元して理解していくために必要なものであった。大塚(編)(1970)は、深層構造設定後の生成文法における核文の定義を、深層構造に…

学習文法における統語論の全体像

全体の枠組み 学習文法における統語論の枠組みは次のようになろう。 単文の構造 文型 文を構成する要素 動詞要素を生成する規則 名詞要素を生成する規則 形容詞要素を生成する規則 副詞要素を生成する規則 文を埋め込むための変形 文を名詞化する変形 文を形…

学習文法における統語論と意味論

生成意味論の直観的優位性と、自律統語論の学習経済性 生成意味論は、意味から統語形式を生成する理論である(Lakoff1971, 1976)。英語学習において、「自分の言いたいことをどんな統語形式で言い表したらよいか」や「目の前にある統語形式がいったいどんな…

『中等国文法別記口語編』を読む(その2)

文法と言語観 時枝(1950)は、当然ながら彼の言語過程説と呼ばれる言語観によって構成されている。この言語観は、「言語をもって、話し手(言語主体)が自己の思想を音声又は文字によって外部に表現する話し手の心のはたらきそのものであるとした」(1-2)と…

『中等国文法別記口語編』を読む(その1)

文法の任務・目的 時枝(1950)の巻頭には、国文法の任務・目的について述べられている。 文法の学習は、他人の話や文章を理解し、或は自己の考えを表現するに必要な「ことば」の法則を学習し、これを身につけることである。 文法の学習は、それが購読や作文に…

学習文法における、意味理解のための表示レベル

訳読の弊害を取り除く仕組み 英語学習、とりわけ読解学習では、母語である日本語に訳すという作業が現在でも行われることが多い。特に初学者がある程度の難度の英文を読む場合はこの過程は避けられないと思われる。しかし、訳読では英語表現を日本語表現に置…

国際コミュニケーションのための英語って?

国際コミュニケーションとは何か 岡部(1987)は、コミュニケーションをそのレベルに基づいて類型化している。それによると、コミュニケーションはまず社会レベルと個人レベルに大別される。社会コミュニケーションはさらに集団、組織、国家、文化というレベル…

学習文法における変形

変形理論の折衷と統語構造のネットワーク化 原口・鷲尾(1988)は、Harrisの変形(変換)とChomskyの変形の最大の違いは、Harrisの変形が文と文とのあいだの対応関係を扱うのに対し、Chomskyの変形は抽象的な構造(深層構造)を別の構造(表層構造)に写像する…

生成文法の諸概念と読解文法

ご案内 これも発表予定だったハンドアウトの続きです。 核文 核文(kernel sentence)とは初期理論における概念であり、句構造規則によって生成された終端記号列(terminal strings)に義務変形を適用することで得られる文である(Chomsky1957)。義務変形と…

読解文法から見た生成文法

ご案内 発表予定だったハンドアウトの続きです。 言語能力と言語運用 生成文法は言語能力のモデルを提案する理論である。言語能力モデルである生成文法のモデルを、そのまま文理解や文生成のモデルと見なすことには問題がある(坂本1995)。したがって、生成…

生成文法の知見を読解文法に援用することの有効性

ご案内 この記事は、10月28日に行われる予定でした阿部一英語総合研究所の研究会で発表する予定で制作していたハンドアウトの一部です。研究会は来月に延期になりましたが、せっかくのハンドアウトをひと月も塩漬けにしておくのももったいないので、ここ…

応用言語学としての受験英語⑤

訳読からリーディングへ 訳読は本当に訳読だったのか? 文法訳読法は英語ではGrammar Translation Methodという。translationには「翻訳」という訳語が当てられることもある。 松本(1993)はリーディングを「送信者が文字に託したメッセージを受信者がいかに…

応用言語学としての受験英語④

コミュニケーション能力と学習文法 コミュニケーション能力 Chomsky(1965)は理想化された言語使用者の言語知識を「言語能力」(linguistic competence)と定義している。この言語能力の概念は、先に取り上げたコミュニケーションの概念と照らし合わせてみれ…

応用言語学としての受験英語③

言語習得と記号としての文法 言語習得のメカニズムと文法体系 言語習得は言語形式と意味/機能とのマッピングであると捉えられる。この考え方は決して目新しいものではない。ソシュールの理論を概観するなかで丸山(1981: 83)は、ラングについて「母国語であ…

応用言語学としての受験英語②

学習過程モデルにおける学習文法の位置づけ 学習過程から学習文法を捉える意義 従来の文法指導ではリスト化された知識の羅列として文法が扱われてきた。これはあくまでもリストであり、辞書のように引いて参照するための文法としてはよいが、学習者が学習す…

応用言語学としての受験英語①

ご案内 今日から何回かにわたって、先日行われた阿部一英語総合研究所の勉強会における研究発表のハンドアウトを掲載していきます。 はじめに 従来、日本の英語教育で教えられている「英語」には、「受験英語」「学校英語」「英会話」の3つがあった。最近で…

特定の言語理論のみを援用することの問題点

言語習得過程に沿った文法をめぐる試み 生成文法理論が示した言語獲得装置(acquisition device;AD)は、英語教師に母語獲得と外国語習得の違いを考えるきっかけをもたらした。その結果、外国語習得では一次的言語資料(primary linguistic data;PLD)が絶…

母語獲得と外国語習得

ご案内 今回のエントリーは、以前のエントリーの内容の一部を拡充したものとなっています。 Chomsky(1966)の母語獲得モデル Chomsky(1966:20)は、人間の母語獲得を次のようにモデル化している。 primary linguistic data→[AD]→G primary linguistic data(一…

編集中・・・

現在、過去のエントリーに書いたことを整理し、欠けている情報を補ったりする作業を進めています。道楽でやっているわけではないので、どこかで発表する機会があれば発表しなければならないし、教材化できるものは教材化しなければなりません。 その過程のな…