持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習国文法と学習英文法②

文法の位置づけを考える

学習英文法の内容を再点検するうえで、三宅(1978)はその留意点を挙げているが、そのうちの1つとして、英語教育全体の中で文法がなしうることとなしえないことを明確にしておく必要があることを指摘している。この留意点は日本人学習者にとっての、英文法学習と国文法学習の共通点と相違点を明らかにすることと関連してくる。外国語である英語の学習における文法学習の役割と、国語学習における文法学習の役割は異なるからである。しかし、異なること自体は明らかであっても、具体的にどう異なるのかということに関しては、明らかではない部分が多い。
英語圏における英語教育で、文法をどう位置づけるかということも難しい問題のようである。稲村(1974)によれば、できるだけ早い時期に文構造について教えた方が話す能力や書く能力が高められるという主張と、中学校以前に体系的な文法指導を行うことは好ましくないという主張があるという。これは30年以上前の状況であるから、現在は状況が変化しているかもしれない。しかし稲村は、母国語の文法学習は言語習慣ををある程度体得した後に行われるもので、その目的は第一義的には、母国語の構造や言語と論理の関係といった、メタ言語能力の育成にあると述べている。だとすれば、現在の学習国文法を取り巻く状況と大差はないといえる。

英文法と国文法の位置づけの違い

国語学習の場合、言語活動全体を明示的文法知識が支えていると考えることは、決して不自然なことではない。この場合は文法学習を言語活動全体に結びつけて行うことになる。これに対して母国語学*1の場合は、次の3つの可能性が考えられる。

  1. 4技能すべてに結びつける。
  2. 読む・書くの2つの技能にのみ結びつける。
  3. メタ言語知識としてのみ扱う。

1.であれば小学校のできるだけ早い段階、2.であれば高学年で、3.であれば中学校以降で学習を開始することになろう。ただし、英文法の体系的学習を開始する時期を考慮した場合、国文法の学習はそれに先行させる必要がある。言語知識を学習する場合、既知の言語知識との関連づけができる方が効果的であるから、明示的な英文法学習を効果的に行うには、日本語の明示的文法知識があらかじめ備わっているほうが望ましいからである。

参考文献

  • 村松雄(1974)「言語活動と文法の指導」『英語教育』23(2) pp.15-17.
  • 三宅鴻(1978)「英文法の再点検」『現代英語教育』15(5) pp.2-4.

*1:ふと思うのだが、「母語学習」というのはありうるのだろうか。教室で検定教科書を使用して学習する母語は、その時点で「母国語」のはずである。