持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語−文法

日本語の形容詞(その6)

前回の記事 この記事は前回からの続きになります。 ownricefield.hatenablog.com 形容詞の活用(続き) 鈴木(1990: 69)は、日本語の形容詞には次のような文法上の性格を持つと指摘しています。 ①現代語では、「く・い・けれ」と一律に活用する。 ②そのままで…

日本語の形容詞(その5)

形容詞の活用 古典日本語においては、形容詞の活用にはク活用とシク活用の2通りがあります。しかし現代日本語においてはこの区別はあまり有効なものではありません(森田2008: 168)。たとえば、「美しい」「おいしい」のような「しい」という語尾を持つ形容…

日本語の形容詞(その4)

前回の記事 この記事は前回の続きになります。 ownricefield.hatenablog.com 日本語の形容動詞文と対応する英語 前回の形容詞文に続いて、今回は形容動詞文のお話です。学校国文法の枠組みにおいて、形容動詞は現代日本語で唯一、終止形と連体形が異なってい…

日本語の形容詞(その3)

前回の記事 この記事は前回からの続きになります。 ownricefield.hatenablog.com 日本語の形容詞文と対応する英語 今回は日英語の比較対照のお話に入っていきます。日本語の形容詞が-iと-kattaで時制を表し現在と過去を表し分けるしくみを備えているのに対し…

日本語の形容詞(その2)

前回の記事 この記事は前回からの続きになります。 ownricefield.hatenablog.com 形容詞と形容動詞(続き) 前回の記事でも見てきた形容詞と形容動詞についてもう少し掘り下げていきます。英語母語話者向けの日本語文法書であるAkiyama and Akiyama(2012)は…

日本語の形容詞(その1)

形容詞と形容動詞 日本語を学校国文法の枠組みで見た場合、「形容詞」と「形容動詞」という品詞が設定されています。両者は別の品詞とされていますが、意味の面ではいずれも「事物の性質、状態を表す語」(尾上1982: 17)と定義されます。このため、形容詞を…

もっち先生の「もっちり文法」:第5回~第8回の背景・参考文献

「もっちり文法」第5回~第8回の全体的なこと この4回は、「日本語の動詞文」のうち、現代日本語を、英語を対応させながら解説することを意図したものです。こうした授業はほとんどやったことがなく、スライドはほぼ書き下ろしです。ただし、日本語の動詞型…

もっち先生の「もっちり文法」:第1回~第4回の背景・参考文献

「もっちり文法」とは vimeo.com複言語主義の考え方に基づき、高校生や大学受験生を始め、幅広く、日本文法(現代語・古典語)、英文法、漢文法を比較対照させながら語っていく「動画」として、「もっちり文法」というシリーズを始めました。 教育文法の記述…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その19)

天候や時を表す文 天候や時を表す文は、文型で言えば、多くの場合、S+VかS+V+Cになる。しかしだからといって、取り立てて扱わなくてよいということにはならない。まず、itに対応する日本語が多くの生徒にとって明確ではない。生徒の中には「this=これ、t…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その18)

There is/are . . . で始まる文 このクラスではすでに日本語の「は」の働きを導入済みである。S+V+O+Cも導入済みである。この2項目を生徒が理解していることが、There is/are . . .を導入する前提であると考える。まず、次の2つの日本語の文の違いを生徒…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その13)

日本語の文の主題:「は」について 英文法を扱う授業で日本語の文法の話にあまりに多くの時間を割くことは現実的ではない。しかしながら、日本語を母語とする英語学習者にとって必要なことであれば、それを提示することが必要である。こうした条件にあてはま…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その12)

「好き嫌い」などを表す形容動詞 日本語の形容動詞文には、好き嫌いや必要・不必要を表すものがある。これらの形容動詞文は感情を表す形容詞文と同様に、英語では他動詞文に対応する*1。 I like coffee. (私は)コーヒーが好きだ。 I hate cats. (私は)ネ…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その11)

感情の表現 S+V+Cという文型を日本語の形容詞文(形容動詞文)や名詞文との対比で導入することは前回および前々回の記事で述べた。しかしながら、日本語の形容詞文・形容動詞文のすべてが英語のS+V+Cに対応するわけではない。この「例外」とも言える表現…

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その9)

S+V+Cの導入 英語の基本文構造を、最も頻度の高い文型であるS+V+Oで導入し、その後S+V+O+Aへと拡張し、次いでS+VとS+V+Aを導入した。そしてここへ来てようやくS+V+Cの導入となる。中学校の教科書であれば多くの場合真っ先に導入する文型であるS…

呟きに登場したブックリスト

ご案内 この何日かの私のtwitter(@ownricefield)での呟きで言及した本を挙げておきます。英作文における日本人的誤り作者: 松井恵美出版社/メーカー: 大修館書店発売日: 1979/04メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る日本文法 口語篇 (岩波全…

第3回町田研究室修了生研究会発表資料

2013年7月20日に研究室のOBOGによる研究会で発表しましたので、ハンドアウトの本文を掲載いたします。 「グローバル化」と国語教育・英語教育 教育再生実行会議の提言 昨年末に政権が交代して以来、「成長戦略」という言葉を頻繁に耳にするようになった。教…

グループワークの方法

文法教育とグループワーク 従来の文法教育は教師が文法体系を学習者に対して明示的に提示することと、教師によって提示された文法体系を学習者が暗記することが大きな柱であったといえる。これに対してメタ言語能力の発達を促進するための文法教育では、学習…

帰納的文法教育における参加型学習

文法教育と参加型学習 文法教育の授業のあり方を教師と学習者との関係からみてみると、参加型学習にも言及しておく必要がある。先行実践としては、原沢(2006)が日本語教育に関心がある者への文法教育に参加型学習を取り入れている。参加型学習は開発教育にお…

帰納的文法教育における発見学習

文法教育と発見学習 帰納的な文法教育とは学習者中心の文法教育である。桑原(2010)は、単元学習の立場を学問体系を教科の知識として教師が学習者に教え込むのではなく、学習者の側から学習者の生活を見据えながら学習活動の組織・指導を行う立場であるとして…

修士論文とこれから

ご案内 今日掲載するのは、2012年1月20日に行われた所属研究室の修士課程・博士後期課程合同発表会で配布した資料の本文です。修士論文に添付した概要とは少し違った角度から振り返ったところもあります。 修士論文の位置づけ 今回の発表にあたり、発表者自…

修士論文概要

ご案内 以下にお示しするのは、2012年1月12日に提出いたしました修士論文の概要です。修士論文のテーマは「メタ言語能力を育む文法教育:古典テキストの訳読で育む現代語の力」です。 修士論文概要 本研究の目的は、高等学校国語科におけるメタ言語能力の発…

ゼミ発表資料

2010年12月17日にゼミで発表した資料を転載します*1。やや荒削りの部分がありますが、そのあたり今後練り直していきたいと考えてます。 教育文法の概念 コミュニケーション能力と文法能力 教育文法の概念を明らかにしていくまえに、コミュニケーション能力全…

ゼミ発表資料

2010年11月19日にゼミで発表した資料を転載します*1。前期末の7月22日のMD合同発表会以降、久しぶりの本格的なゼミ発表となりました。このため、8月30日の自主ゼミや10月1日のゼミでの、まとめかけの発表内容をもう一度捉え直し、前期発表分を含め修士論文の…

合同発表会発表資料(抜粋)

7月23日に行われた、早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻・町田研究室のMD合同発表会で発表したときの資料を掲載いたします。今回はこれまでの研究を博士後期課程の方々に報告する意味あいもあったため、ブログへの掲載にあたっては過去に掲載した部分…

ゼミ発表資料

2010年7月2日にゼミ*1で発表した資料を転載します。 メタ言語能力と文法教育 文法教育の目的:橋本進吉と時枝誠記 国語科における文法教育の目的は、古典文法(文語文法)と現代語文法(口語文法)で異なる。古典文法教育の目的は古文解釈のためという一点に…

ゼミ発表資料

2010年6月11日にゼミで発表した資料を転載します*1。前回の発表で文献の読みが浅かったところを読み直しているため、内容に重複するところがあります。 メタ言語能力の概念 メタ言語能力の定義 メタ言語能力(metalinguistic abilities)の定義を簡略化して…

ゼミ発表資料(その2)

2010年5月7日にゼミで発表したレジュメを転載いたします。 メタ言語能力 メタ言語能力と外国語学習 メタ言語能力と外国語学習との関係としては、2つの仮説を考えることができる。ひとつは「メタ言語能力が外国語学習を促進する」で、もうひとつは「外国語学…

ゼミ発表資料(その1)

2010年5月7日にゼミで発表したレジュメを転載いたします。 メタ言語能力 メタ言語能力とは何か メタ言語能力(metalinguistic abilities)*1とは、人間の脳内に内蔵されている言語知識を客体化して利用できる能力である(大津1982, 1989)。この概念を指す用…

文型における日英語の接点

動詞の図式構成機能 田中・深谷(1998)は、動詞が事態を構成する対象に役割を割り振り、事態の図式としてとりまとめる働きのことを「図式構成機能」と呼んでいる。ここでいう「図式」とは認知言語学で言われる「命題スキーマ」に相当し、「事態を構成する対象…

【再掲】学習文法における文型論

今回は和文英訳のための日本語文法を考えるために、このブログで2008年4月に掲載した文型論を再掲することにします。 文型研究の3つの観点 日本語の文型研究は、次の3つの観点があると言われている。 表現意図による文型 語の用法に関する文型 文の構造に…