持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習国文法と学習英文法①

前回のエントリーの反響が多かったので、それに関連する内容で展開していきます。

理論文法と学習文法の区別

全国大学国語教育学会(編)(1954: 61-62)には、「ことばのきまりの学習指導」に関して、次のような記述が見られる。

文法学は一つの体系を持った学であるが、普通教育で純学問的に取り扱うのはかえってよくない。普通教育では文法学を学問的に深入りし追求することは必要なかろう。指導すべきことはむしろほかに多い。それらの方面を、身につくまで指導するのが正しい行き方である。

これは、国語教育における文法とは国語学研究における文法とは目的を異にするという考え方である。この考え方は、英語教育において特定の言語理論に基づいた教授法が試みられていた時代の中では先進的である。

文法学習の目的と方法

「ことばのきまりの学習指導」とは、言語生活の全面、いわゆる4技能すべてに即して、そうした言語経験のなかでことばのきまりを発見・意識させる方法論をとるものである。文法学習の目的が、より正確で効果的な言語生活の実現であることに問題はなく、むしろ妥当なものであるといえる。しかし、その目的を達成するために、体系的・明示的文法指導を行わなくてもよいのかというと、それは別の話である。
戦後の国語教育において言語活動の一部として文法を指導するようになった背景には、戦前の知識伝達重視の文法指導に対する批判があった。しかし、その後国語の学力低下が叫ばれるようになり、こうした方法論は行き詰まっていった。母国語教育と外国語教育という根本的な違いがあるものの、半世紀後の現在、英語教育においてこれに似た問題が生じていることを合わせて考えると、興味深いものがある。
時枝(1960)は、国語教育において、知識伝達や文学教育を中心とした国語教育と経験主義の国語教育の止揚を試みているといえる。しかし、森(2004)などでも述べられているように、時枝の文法体系は教師の負担が大きく、広く普及するには至らなかった。この点も、生成文法認知言語学を援用した学習文法の再編が一般の英語教育にとっては普及していない英語教育の現状と重なり合うところがある。
正確で効果的な言語技術を実現するために、学習すべき文法知識とはどのようなもので、どのような過程を経て学習すべきか。その際に国語教育と外国語教育はどのように連携していくべきか。そして学習者に先立って教師はまず何を学習し、研究すればよいのか。こうした観点から考えられた文法が学習文法の名にふさわしい文法ではなかろうか。

参考文献

  • 森篤嗣(2004)『学校文法拡張論−インダクティブ・アプローチに基づく文法教育の再構築』大阪外国語大学博士論文.
  • 時枝誠記(1960)「高等学校学習指導要領「国語科」の改訂について」『国文学』5(14) pp.8-12.
  • 全国大学国語教育学会(編)(1954)『国語科教育概説』三訂版 学芸図書.