持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

文章におけるレトリックとは何か(その5)

目的の把握 小林(1954)は、理想的な文章とは何かという問いについて、旧修辞学と近代の言語美学との対比を取り上げている。旧修辞学では一定の型が設定され、その型にあてはまった文章が理想的な文章だという。これに対して近代の言語美学では「場の函数」と…

文章におけるレトリックとは何か(その4)

読み手を把握する(つづき) 実際に文章を書く際に読み手を把握するとなると、まず2つの点を認識しなければならない。ひとつは読み手が存在するという事実自体であり、もうひとつはどのような読み手なのかという属性の問題である。読み手が存在すること自体…

文章におけるレトリックとは何か(その3)

文章表現における場面の制約と認識 時枝誠記の言語過程説では、言語の表現や理解は場面の制約を受けるという。この場面という概念は、場所的な概念に加え、理解者や理解者が置かれている状況、そしてもちろん表現者が置かれている状況を含むものである。しか…

文章におけるレトリックとは何か(その2)

ふたつのレトリック 古代ギリシア・ローマの弁論術では、言論の機能は「説明する」「楽しませる」「感動させる」の3つに分けられるという(佐藤1994)。佐藤は、この3分法は2分法の変形であり、「説明すること」と「楽しみを与えること」の2方向から「感…

文章におけるレトリックとは何か(その1)

言語過程説・コミュニケーション能力・レトリック 言語過程説というと詞辞理論の議論に向かうものと考えられがちだが、今回は格関係や陳述の話ではない。ここでは時枝(1941)が取り上げている「言語の存在条件」を問題にしたい。時枝は、言語が「誰(主体)か…

文章における論理とは何か(その5)

文の論理と文章の論理 前回の「日本語の論理」という節で言及した「論理」とは、それまでのところで扱った「論理」とは実は別物である。前者の「論理」は文の論理であり、後者の「論理」は文章の論理である。文の論理とは何か。これは、書き手や話し手が伝え…

文章における論理とは何か(その4)

論理に対する態度 言語活動に際して、なぜ論理的ということが問われるのだろうか。野内(2008)は、日本人がこれまで論理を重んじてこなかったことへの反動ではないかと指摘している。沢田(1962)は「論理」に対する人々の反応は両極端に分かれるという。ひとつ…

文章における論理とは何か(その3)

論理と文章の関係 ロジカルライティングという言い方がある。照屋(2006)など最近の書物でも紹介されている。だが、鳥山(1954)でも、「実証のための資料はできるだけ多方面から選んだ方が読者を納得させ得るが、多方面から選んだ資料相互のあいだに矛盾があっ…

文章における論理とは何か(その2)

説得のための文章(続き) 大熊(1973)は論証の方法として、帰納的推論と演繹的推論に加えて類推法を取り上げている。類推法には説明を分かりやすくするという効果があるが、結論が確実に出る保証はなく、大熊もこのことに対して注意を促している。 書き手が…

文章における論理とは何か(その1)

説得のための文章 文章の目的の1つに、読み手を説得させることがある。読み手を説得させる文章は「論説文」や「論証文」と呼ばれる。論説文とは「ある問題について、主張を、論証的・解説的に述べ、相手を説得しようとする文章」(大熊1973b)であり、論証…

「生活綴方」という発想(その3)

展開記叙と総合記叙 綴方で書く経験的事実とは、過去において直面した事実と、目の前の事実の2つがある。このうち、前者の事実を記叙(記述、叙写)するには、総合記叙と展開記叙の2つが可能であり、後者の事実の記叙は展開記叙となる。総合記叙とは、過去…

「生活綴方」という発想(その2)

「その1」は2年近く前のエントリーになります。 綴方の指導 鈴木(1935)は、子どもに書くのが無理なものを書かせておきながら、綴方が伸びないという教師が多いと言っている。書ける題材から始めなければならないというのだ。題材が難しいと、自分が直接経…

主語と主題の観点から英文法を捉える(その2)

tough構文と主題 To please John is easy.(ジョンの機嫌をとるのはやさしい) It is easy to please John.(ジョンの機嫌をとるのはやさしい) John is easy to please.(ジョンは、機嫌をとりやすい) 上は安藤(2005)に挙げられている用例で、訳文も安藤に…

主語と主題の観点から英文法を捉える(その1)

NP移動と主題 Mary happened to be out.(メアリーは、たまたま外出していた) It happened that Mary was out.(メアリーは、たまたま外出していた) John is likely to win.(ジョンが勝ちそうだ) It is likely that John will win.(ジョンが勝ちそうだ)…

40000アクセス達成

2005年の秋に始めたこのブログも、おかげさまで40000アクセスを達成しました。英語教育や国語教育の、やや理論寄りで、しかも必ずしも公教育での実践を前提としない内容のものが多い「非人気ブログ」ですが、そのぶん多方面の方々から関心を持っていただいて…

語順について(その2)―主語と主題

日本語における主語の「省略」 日本語では主語が省略されるとよく言われる。時枝(1954)も「国語における用言の無主格性」と題する一節の中で、次のように述べている*1。 国語においては、述語となる用言の主語が、屡々省略されて、それが、また、国語の特性…

語順について

「従属節」と日本語 日本語と英語の文構造の違いのなかで重要なもののひとつに、英語では複文が多く用いられるのに対し、日本語では重文が多く用いられているという点が挙げられる*1。亀井(1994)はこれを、英語は立体構造で日本語は平面構造であるという説明…

文の長さ(その2)

いろいろな「長さ」 文は短い方が読みやすいが、長ければ長いほど読みにくくなるのかというと、そう単純な比例関係をなすようでもなさそうである。樺島(1967)では次の2つの文の読みにくさについて検討している。 おじさんからおみやげに童話の本をもらった…

文の長さ(その1)

効果的な伝達のために 効果的な伝達のために短い文を用いるという発想は、日本でも戦時中からあったという(扇谷1983)。扇谷によると、当時の軍部が作戦の必要性から、文部省や司法省などとわかりやすい文について協議していたという。明治以来の文語文から…

ぼそぼそ・・・

「I−my−me−mine、主格−所有格−目的格−所有代名詞、はが−の−にを−のもの」 「英語の文は、主語と動詞で成り立っています。」 「現在完了形は、『〜しちゃった』という意味です。」 「不定詞の3用法、こと−べき−ため」こんなに基本的なところから説明している…