持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「生活綴方」という発想(その3)

展開記叙と総合記叙

綴方で書く経験的事実とは、過去において直面した事実と、目の前の事実の2つがある。このうち、前者の事実を記叙(記述、叙写)するには、総合記叙と展開記叙の2つが可能であり、後者の事実の記叙は展開記叙となる。総合記叙とは、過去のさまざまな場面で直面した人物や事象を、さまざまな観点から記叙する形式である。このように多くの事柄を多角的に捉えることが要求される総合記叙は、低学年の児童には難しいと鈴木(1935)は指摘する。これに対して、展開記叙は出来事をあるがままに書いていくため、総合記叙よりはるかに容易であるという。
鈴木は決して総合記叙を否定しているわけではない。しかし、低学年の場合は展開記叙でのびのびと書かせ、児童にものを書く自信をつけさせることが大切であると説いている。抽象的な思考を求めたり、分析的な思考を求めるのも、高学年においては必要であるかもしれないが、低学年においては苦痛でしかない。「書く」ことと「考える」ことをある程度切り離して指導することが低学年においては有効であるというのが、鈴木の綴方に対する考え方であると言える。

参考文献