持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

主語と主題の観点から英文法を捉える(その1)

NP移動と主題

  1. Mary happened to be out.(メアリーは、たまたま外出していた)
  2. It happened that Mary was out.(メアリーは、たまたま外出していた)
  3. John is likely to win.(ジョンが勝ちそうだ)
  4. It is likely that John will win.(ジョンが勝ちそうだ)

いずれの訳も安藤(2005)のものをそのまま引用した。安藤は英語の名詞句の移動と日本語の助詞の使い分けを対応づけて考えてはいないようである。それもそのはずで、安藤はこれらの現象を純粋に統語論的に説明している。つまり、1.や3.のようなto不定詞節では名詞句の移動が生じるのに対して、2.や4.のような定形動詞節では移動は生じないということである。
これに対して、Givon(1993)はこの種の文を主題化構文(Topicalizing Construction)と分析している。また、吉田(1995)は、対応する能動態のないbe said to構文を説明する際に、この種の文の主語は典型的には旧情報に属す話題であり、不定名詞句が避けられる傾向にあることを指摘している。すると、上に挙げた英文の訳は、以下のようになる*1

  1. Mary happened to be out.(メアリー、たまたま外出していた)
  2. It happened that Mary was out.(メアリーたまたま外出していた)
  3. John is likely to win.(ジョン勝ちそうだ)
  4. It is likely that John will win.(ジョン勝ちそうだ)

参考文献

  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社.
  • Givon, T.(1993) English Grammar II. Amsterdam: John Benjamins.
  • 吉田正治(1995)『英語教師のための英文法』研究社出版

現代英文法講義

現代英文法講義

English Grammar: A Function-Based Introduction

English Grammar: A Function-Based Introduction

英語教師のための英文法

英語教師のための英文法

*1:もちろん、英語にはNP移動以外にも強勢など音韻的に情報の流れを支える方法があるが、ここでは書き言葉でも通用する仕組みについて考えている。