持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

構文からフレーズへ(続き)

伊藤・山口による英文構造の体系的提示の試み

山口(1997)によれば、伊藤*1と山口は英文読解の基盤を構築する共同作業の中で、それまで品詞論と熟語的な表現が根幹をなしていた英文解釈法を改め、文構造の体系的な提示による一貫性のある方法を確立していったという。そして、彼らはその過程の中で、不定詞、関係詞、動名詞といった準動詞や関係詞節などを文の構成要素や拡大要素として位置づけていった。
伊藤(1997)では、確かに主語の位置に不定詞や動名詞が生じた場合の処理の仕方に言及されており、準動詞を文の構成要素として取り込もうとする試みが見られる。しかし、関係詞の章になると、関係詞の節中での役割から記述が始まっており、関係詞節を文の構成要素として取り込もうとする姿勢がやや後退しているように感じられる。

伊藤・山口による英文構造の体系的試みの限界

伊藤(1972)を見ると、関係詞の練習問題として2つの文を関係詞によって1文にまとめる練習が収録されている。現在でも隈部(2002)のようにこの練習の有効性を認めているものが少なくないが、これでは関係詞節を文の構成要素として実感することが学習者には困難に感じられてしまうおそれがある。吉田(1995)は、例えば(1)The man who is talking with Mr. Green is my father.と(2)I'm going to see an American who has been in Japan for a week.では、(2)の方が習得が容易であるということを指摘している。2文を合成する練習では(2)のパターンにはすぐに習熟できても、(1)のパターンの習得は必ずしも促進されない。隈部は関係詞節の働きや節中での関係詞の働きを理解させるには2文を1文にする練習問題がだとうという見方をしている。しかしそうした文法的な働きを理解させるには必ずしも2文を1文にする書き換えをする必要はなく、Eastwood(1999)や阿部・持田(2005)のような、名詞に文をつなげる練習を行えばよいのである。
伊藤が関係詞の分析において、節全体の働きよりも関係詞の節中での働きの方に意識が過剰に向けられたのには理由がある。それは記述の体系性を重視するあまりに関係詞連鎖や二重制限などの節の内部構造の複雑な現象を扱わなければならなかったことである。しかし、伊藤自ら指摘しているように、読解文法は現実の英文に対応できるものでなければならない(伊藤1997)。頻度の低い文法現象は思い切って排除することも必要で、このことによって体系性が損なわれると見ることもできるが、むしろ学習者に体系を見えやすくする効果が生まれる。
関係詞は、2文を1文にする練習から、名詞に文をつなぐ練習に改めることで、関係詞の導く節が名詞を修飾する働きを持つということを、学習者に鮮明に印象づけることができる。このようにして、伊藤(1997)などで提示された英文解釈法を、伊藤英語本来の目標に近づけるように少しずつ修正していくことが、受験英語を超えた読解文法の確立につながっていくのである。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • Eastwood, J. (1999) Oxford Practice Grammar. 2nd ed. Oxford:OUP.
  • 伊藤和夫(1972)『英文法頻出問題演習』駿台文庫.
  • 伊藤和夫(1997)『英文解釈教室改訂版』研究社出版
  • 隈部直光(2002)『教えるための英文法』リーベル出版.
  • 山口俊治(1997)「私の見た伊藤和夫氏の業績」『現代英語教育』34(2) pp.10-11.
  • 吉田正治(1995)『英語教師のための英文法』研究社出版

Oxford Practice Grammar: With Answers

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教えるための英文法

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*1:駿台予備学校講師の故伊藤和夫先生