持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『良問でわかる高校英語』「別冊」の別冊(その9)

Chapter 2 動詞と文型(その5)

4.2.〜4.6.はS+V+O+Aの文型を扱っている。これらは阿部・持田(2005)でも取り上げている。文型に番号を振れば「5文型」の枠組みか「7文型」の枠組みかというところで悩むのであるが、本書では文型に番号を振っていないので、柔軟に対応することができる。これには、もちろん、和書であれば安藤(1978,1983, 2005, 2008)、村田(1984)などの「7文型」や「8文型」の枠組みにおけるS+V+O+Aの扱いを参考にしている。最近の受験英語の世界では「完全な文」と「不完全な文」という用語がすっかり定着しているが、隈部(2002)はPut the book.(その本を置きなさい)のような文は付加詞がなく不自然であると指摘している。必要な名詞句が満たされているかどうかだけで文の「完全・不完全」を言うのは適切ではないことがここから明らかになる。このあたりは関係副詞のwhereを捉えるときにも重要になってくる。
安藤は一貫してAを場所規定のもの、告知動詞の補部に生じるもの、供給動詞の補部に生じるものに分類している。このうち、場所規定のAには場所(位置)を表すものと方向を表すものがあり、告知動詞はexplainなどのグループとremindなどのグループにわけることができる。こう考えることでS+V+O+Aは5つのグループに分類することができる。「文型」としては細分化しすぎと思われるかもしれないが、ここでは「文型」と「動詞の語法」の接点を提示することもねらいとしている。つまり、動詞の意味が文型を規定するという立場に立てば、バラバラに見える動詞の語法も文型の延長線上に捉えることができるという「見通し」が学習者も持つに至るのである。
また本書脱稿後に触れた知見であるが、永井他(2015)は動詞の項構造情報や項の具現に関する知識を明示的に教授することを提案している。これまで5文型と語法問題集に現れる動詞の語法とを結ぶ明示的知識が提示されなかったことが、学習者が動詞を自在に使うことに導けなかった原因のひとつであると筆者はみている。本書は結果的に永井らの提案を曲がりなりにも実現できているといえよう。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • 安藤貞雄(1978)「5文型とその問題点」『学習英文法』研究社出版
  • 安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店
  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社
  • 安藤貞雄(2008)『英語の文型』開拓社
  • 隈部直光(2002)『教えるための英文法』リーベル出版
  • 村田勇三郎(1984)『文(I)』研究社出版
  • 永井典子・綾野誠紀・岡田圭子・中西貴行(2015)「母語と英語のメタ言語知識に基づく明示的な英文法教授法への一提案」『言語教育エキスポ2015』pp.41-42