持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『英文解釈教室』の批判的検討―構文からフレーズへ

主語と述語動詞の把握

『英文解釈教室』(以下、伊藤(1997))では、英文を形から考えていく上で始めに行うことは、何が主語で何が述語動詞であるかを確認することであると述べられている。そして主語の把握にあたっては、「文にはじめて出てくる、前置詞のついていない名詞を、主語*1(主部の中心になる語:S)と考えて、これに対する動詞を探してゆくこと」(伊藤1997:2)と説いている。これが高橋(1986:1)になると、「非Mと非Sと非Vの特性を明らかにして、文中のSVをその構造的特徴によって瞬時に認識する」という言い方になる。
伊藤が前置詞のつかない名詞を主語として読めと説くのは、主語は名詞であるということと、「前置詞+名詞」全体が名詞としては働かないという言語事実に裏付けられたものである。ここから高橋の言う主語の構造的特性を学習者に意識させることによって、主語の把握が容易になると考えることができる。主語の構造的特性とは、人称代名詞(I, he, she, we, they)を除けば名詞要素の構造的特性と重なる。「前置詞+名詞」に代表される非Sの多くは副詞要素である。Vはもちろん動詞要素であり、SとVのあいだに挟まる語句の多くは形容詞要素である。したがって、まず基本4品詞の概念に学習者が習熟し、4品詞の要素にそれぞれどのような形式のものがあるかが分かるようにすることが必要になる。

S+V+X+X

伊藤は、読解文法は5文型的分析では無理があると考えていたようである。木村(1997:21)は、「Xは文字通りそれが出てきて初めて完結する構造であり、それの出現の前に必要とされるのは聞き手、ないしは読み手の予測である」と指摘する。しかし伊藤自身はこの予測という問題に対して、少なくとも文型論においては明確な言及はない。ここは田中(1993)のように動詞の意味が文型を規定するという立場に立つ必要がある。この立場に立てばVを認識した段階で、その動詞の意味から後続する形式を予測することが可能になる。
話を構造に戻すと、Xは品詞上、名詞、形容詞、副詞のいずれかになる。これを図式化すると次のようになる。

  • 基本構造:[名詞]+[動詞]+[名/形/副]+[名/形/副]
  • 修飾語を含んだ構造:[副詞]+[名詞]+[形/副]+[動詞]+[副詞]+[名/形/副]+[形/副]+[名/形/副]+[形/副]

これを一般化すると、文を次のように定義できる。

文とは、基本4品詞のいずれかの働きをもつ語句の連鎖である。

読解文法の構築で必要な作業は、難解な構文の分析や説明よりも、文法現象を基本4品詞の枠組みの中で再配列することである。その上で、伊藤が試みた文法構造の分析を、学習者の負担が軽減され、かつ現実の英語の実態に即したものになるように、現代の文法研究の知見を活かしながら見直していくことが必要である。

参考文献

発想の英文法―チャンクだから話せる

発想の英文法―チャンクだから話せる

*1:「主語」と「主部」の2つの文法用語を使い分けることが学習文法にとって本当に必要なのかということも考えていかなければならない。