英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その5)
語順と語形(続き)
副詞の扱いを巡る議論については前回触れた。今回は基本文構造を導入する段階では副詞の機能を定義することを避けた。品詞は8品詞のうち、動詞、名詞、形容詞、副詞を「基本4品詞」とし、これら4品詞の導入にあたっては意味による定義を行い、文中での機能による定義はいずれもこの段階では回避している。
動詞→状態・変化・行為を表す。
名詞→モノ・コトの名前を表す。
形容詞→人・物・出来事の性質、状態を表す。
副詞→行為などの仕方、時、場所、程度などを表す。
他の品詞はともかく、副詞のこのような意味からの定義も暫定的なものである。それでもとりあえずの定義から、どのような語がそれにあたるかを確認し、そして実例に触れていくことで、副詞の感覚を養ってもらうことを目指した。そして、前置詞の導入を済ませたうえで、副詞句の意味と文中での基本的な位置を例文で確認していくという方針をとることにした。
前置詞については、英語の前置詞と日本語の助詞との対応関係が取り上げられることが多い。英語の「前置詞+名詞」が日本語の「名詞+助詞」が鏡像関係(mirror-image relation)にあるというものである。
- live in London=ロンドン ニ 住ム
- sit on the sofa=ソファー ニ スワル*1
こうした考え方は、英語の前置詞も日本語の(格)助詞も、名詞句と動詞句の関係を示すという共通性に着目することに根ざしたものである。両者の違いは語順にあるというのがこの分析が重視するところである。日本語母語話者に英語を教える際に用いる教育文法において日英語の語順の違いを取り上げることは極めて重要である。しかしまた同時に、ここでの日英語の違いは語順だけなのかという疑問が残る*2。
英語では、物事の空間関係を表す際には前置詞を用いる。しかし、日本人にとって英語の前置詞の習得はむずかしい。それは、日本語に英語の前置詞に対応する語がないだけでなく、空間関係を捉える際に日英語では表現の仕方に違いがあることにも起因するからである。*3
英語は前置詞1語で多様な空間関係を表すことができるが、日本語の助詞では英語の前置詞ほどの多様な空間関係を表すことができない。日本語の空間表現は助詞も含めて次のように整理できる。
- 「空間名詞+空間辞」型:{中に、上で、下まで、外へ、等々}
- 「空間辞」型:{に、で、を、から、まで、へ}
- 「移動動詞-て」型:{通って、横切って、向かって、等々}*4
格助詞は空間辞として用いられる。しかし、英語の前置詞が日本語の格助詞に対応する場合も、日本語と英語が一対一で対応するわけではない。例えば、at the stationは、I met him at the station.では「私は駅で彼に会った」に対応するが、I arrived at the station in time for the train.では「私は列車の時間に間に合って駅に着いた」に対応する。一方、I went to the station.では「に」が現われて「私は駅に行った」にも「私は駅へ行った」にも対応する*5。日本語には空間関係を表す名詞表現が多いため、英語の前置詞が日本語の「空間名詞+空間辞」に対応することも多い*6。また、英語の前置詞が日本語の動詞に対応することも少なくない。経路を表す表現に多いが、そうした表現に限らず訳出法のひとつとして提示されることもある*7。今回の教材ではこうした点も踏まえて前置詞の導入を試みている。
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*1:安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社, p. 624
*2:田中茂範(1997)「空間表現の意味・機能」田中茂範・松本曜『空間と移動の表現』(日英語比較選書6)研究社出版, p. 7.
*3:田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導』大修館書店, p. 39.
*4:田中茂範(1997)「空間表現の意味・機能」田中茂範・松本曜『空間と移動の表現』(日英語比較選書6)研究社出版, p. 8
*5:国廣哲彌(1980)「総論」国廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座第2巻)大修館書店, p. 4.
*6:中右実(1980)「テンス、アスペクトの比較」国廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座第2巻)大修館書店, p. 149.