持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その4)

語順と語形(続き)

「名詞+動詞+名詞」という基本文構造を導入し、動詞との位置関係で主語と目的語を規定し、文の中枢をになう動詞を述語動詞と定義して現在形か過去形を使うとした。そして人称代名詞を導入し、主語と目的語の名詞を「冠詞(の仲間)+形容詞+名詞」の名詞句として展開して、ようやくS+V+Oの文型の導入が一区切り着いた感じになる。これに続くのが、副詞や前置詞の導入である。副詞というのは実に扱いにくい品詞である。

副詞とは、概念上、あるできごとに於いては、その様態や、場所や、時や、因果等の側面が、又、広義のモノや状態に於いては、そのある様態の程度の側面がとらえられた場合の、その様態や、場所や、時や、因果や、程度、あるいは発言の確信度を表すことばで、形態上、その多くは-er, -estをとって比較変化をなし、あるいは、「形容詞+-ly」の形をしていて、more, mostをとって比較変化をなし、統語上、動詞、形容詞、副詞、あるいは文全体を修飾する語類、をいう。*1

上記の解説はある程度網羅的であるが、高校生にいきなり示すことができるような定義ではない。

副詞も機能は複雑であるが、屡々実体の性質や動作についてその程度や様態を意味し、付随性を付随的に限定する表象を喚起するところから、形容詞や動詞を限定する二次的付属語(Subjunct)として構成的内部形式を発達させている。*2

この中島の指摘は、統語的にも意味的にも副詞が「おまけ」であるということであり、名詞や動詞、形容詞のあとに導入すべき品詞であるという程度の示唆は得られよう。しかし、もう少し具体的な教育的示唆がほしいところである。海外の文献に目を向けると、例えばHaegeman and Guéronは、副詞という範疇にはさまざまな要素が含まれており、単一的なとらえ方が困難であると指摘している*3。Collins and Holoは副詞はその特徴として動詞を修飾するが、形容詞を修飾するもの、副詞を修飾するもの、文全体を修飾するものもあると述べている*4が、Parrottはこの説明は正しくないし役に立たないと批判的である*5。Parrottはさらに、副詞を、名詞、形容詞、動詞、前置詞などの他の語類に当てはまらない語類と考えることも有効かもしれないとも述べている。再び和書に戻る。

本当に「副詞」という範疇は必要なのでしょうか。「副詞」という抽象度の高い範疇を持ち出すよりも、「時の表現は文末に」「頻度の表現は動詞の前に」のように記述したほうがポイントがはっきりするのではないでしょうか。ポイントがはっきりするというのは字句の問題だけではありません。「副詞」という範疇を用いないほうがむしろ幅広く事実を説明できるということでもあるのです。I went to America in 2001.という文の"in 2001"は、学習英文法の中では「前置詞句」と呼ばれることもありますし、「副詞句」と呼ばれることもあります。これをどちらで呼ぼうとも、内容としては「時の表現」ですから、文中の位置は文末になるわけです。*6

問題はその意味と機能であり、とりわけ、位置によって微妙に変化する修飾作用の理解が重要である。ここで一つ注意したいのは、範疇と機能を区別するという基本的態度を育てることが副詞の指導でも大切である、という点である。*7

こうした指摘から、副詞とは何かといったことを正面から学習者に突きつけるよりも、意味範疇ごとに分類し、それらが文中のどの位置に生じるかを学習者に知ってもらえばそれでよいのではないか、ということになる。

実用生成英文法

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文法の原理―意味論的研究 (1949年)

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English Grammar: A Generative Perspective (Blackwell Textbooks in Linguistics)

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English Grammar: An Introduction

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Grammar for English Language Teachers

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学習英文法を見直したい

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*1:平野清(1986)『実用生成英文法』開文社出版, pp.29-30.

*2:中島文雄(1949)『文法の原理』研究社出版, pp. 120-121

*3:Haegeman, L. and Guéron, J. (1999) English Grammar: A Generative Perspective. Oxford: Blackwell, p.58.

*4:Collins, P. and Hollo, C. (2000) English Grammar: an introduction. London: Macmillan, pp. 31-32

*5:Parrott, M. (2000) Grammar for English Language Teachers. London: CUP, p. 28

*6:末岡敏明(2012)「より良い学習英文法を探るための視点」大津由紀雄(編著)『学習英文法を見直したい』研究社, p.137

*7:藤武生・鈴木英一(1984)『冠詞・形容詞・副詞』(講座・学校英文法の基礎3)研究社出版, p. 135