持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その8)

S+Vの導入

S+V+OおよびS+V+O+Aの後に導入する文型は、S+Vである。名詞(句)+動詞+名詞(句)すなわちS+V+Oが英語で最も基本的で一般的な文型であることをまず伝え、S+V+O+AではS+V+Oでは言い足りなさが残り、副詞句(主に「前置詞+名詞」)がどうしても必要となる動詞が存在することを示した。これに次いでS+Vを導入するわけだから、今度は目的語がなくても完結する動詞が存在することを学習者に理解してもらわなければならない。そこで、S+Vをとる動詞を、「単純動作・自然現象・生理現象・変化を表す動詞」と規定した。こうした扱い方は古くからあるものであり*1、近年においては認知言語学の立場から再検討が試みられている*2。この文型は目的語をとらない分だけ文構造が単純になるように思われがちだが、実際には何らかの副詞的な修飾語なしで用いられることは少ない。このことが入門期に最初に導入する文型としてS+Vが用いられない理由となっている*3。翻って「英語S」の授業でこの文型を導入するにあたっては、S+V+Oを導入したときに一通りの動詞修飾の副詞句を扱っているため、S+Vを扱う段階ではそうした副詞句の復習の機会となる。なお、教材には、これらのカテゴリーに該当する動詞を含む文を『短文で覚える英単語1900』から抜き出し、配列している。これらを文構造分析と整序問題を中心とした練習問題にして生徒に課している。

S+V+Aの導入

S+Vの次はS+V+Aを導入する。〈存在〉や〈移動〉は基本命題形*4に典型的に当てはまるものであり、これらの命題において伝達される情報は〈位置〉や〈方向〉であり、このためこれらの概念を表す副詞句を省略することはできない。こちらも教材制作にあたっては、これらのカテゴリーに該当する動詞を含む文を『短文で覚える英単語1900』から抜き出し、配列している。また、S+V+Aには、speakやtalkなどの「話す」という意味の動詞も含めている*5。『短文1900』を見ていくと、この3つのカテゴリーに収まらない「自動詞+前置詞句」もかなり見られる。これらの動詞句はイディオムとして覚えてもらうことになるのであろうが、構造上の類似性からここで「『前置詞+名詞』が必要なその他の動詞」として例文を配置した。

英語指導と文法研究

英語指導と文法研究

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

認知意味論の原理

認知意味論の原理

英語教師の文法研究 (英語教師叢書)

英語教師の文法研究 (英語教師叢書)

*1:黒川泰男(1986)『英文法再発見・上』三友社出版

*2:宗宮喜代子(2009)「2種類のSV構文から見えてくるもの」『英語教育』58(2) pp.50-52

*3:小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店

*4:中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店 ただし、中右は〈移動〉ではなく〈過程〉を命題形の名称としている。

*5:安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店, p. 7-8