持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その16)

「あげる」という意味の動詞のパターン

ここからSession3に入る。まずはS+V+O+Oを扱うが、このパターンの提示も「第4文型」という用語の紹介もしていない。パターンの提示は後でおこなう。なぜか。動詞の意味によってはS+V+Oでは情報的に完結しない、もっと普通の言い方をすれば、なんとなく言い足りない、という感覚*1に陥ることを生徒に感じてほしいと考えたからである。

  1. Ray gave a present.
  2. Ray gave a present to Mary.

give自体は「(自分のところから何かを)出す」という意味がある*2。このため、1.の文は「レイはプレゼントを出した」という意味になる。これに対して2.の文では「to+名詞〈人〉」をつけることで、〈差し出す相手(もらう人)〉を示している。これでようやく「レイはプレゼントをメアリーに差し出した」という意味になる。このパターンは「差し出した」ところまでを表すもので、実際にメアリーが受け取ったかどうかは場面や文脈によって変わってくる。ここまでを提示してgiveがS+V+O+Aのパターンで使うことができる動詞であることを確認する。

次に、giveのような動詞はもう1つ、別の語順が可能であることを導入していく。

  1. Ray gave Mary. (?)
  2. Ray gave Mary a present. (○)

この1.は「レイはメアリーを差し出した」という意味になり、特殊な文脈でなければ使えない。これに対して、2.は「レイはメアリーにプレゼントをあげた」という意味になる。この2.の文の仕組みは次のように説明されることがある。

I gave him some money.ではGIVEの対象は「彼」でもなければ、「お金」でもない。むしろ、「彼がお金をHAVEする状況」こそがHAVEの対象なのである。*3

一連のいわゆる「田中本」のgiveの語義を拡張すれば確かにそうなろう。しかし、giveをS+V+O+Aのパターンで用いる時に「出す」から「与える」に意味が拡張して、この意味がプロトタイプとして実際に多く用いられていることを踏まえれば、教育文法としては抑制的な記述を試みるべきではないかと判断した。なお、haveを絡めてgiveの語義を捉えること自体は「田中本」以外にも見られる。

"give"の概念は、"to let have"です。他動詞として用いられる場合は、"give"の目的語を別のものに"have"させることになります。たとえば、"I have a book to him."と言えば、一冊の本を彼に"have"させるわけです。*4

そこで、S+V+O+Oの2つのOの間にはHAVEの関係が成り立つという説明にとどめ、S+V+O+Cに見られるような小節を用いた分析は最小限にとどめることとした。『短文で覚える英単語1900』にはこのパターンをとる動詞はgive, send, lend, causeに限られ、これらの例文と共に解説を行っている。また、toではなくforをとる動詞はbuyのみ取り上げられており、こちらは簡単な解説にとどめた。

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*1:田中茂範(1993)『発想の英文法』アルク, p. 66.

*2:佐藤芳明・田中茂範(2009)『レキシカル・グラマーへの招待』開拓社, pp. 35-36.

*3:佐藤・田中前掲書, p. 38.

*4:ケリー伊藤(2009)『辞典ではわからない新英単語の使い方事典:基本動詞編』三修社, p. 129