文章におけるレトリックとは何か(その4)
読み手を把握する(つづき)
実際に文章を書く際に読み手を把握するとなると、まず2つの点を認識しなければならない。ひとつは読み手が存在するという事実自体であり、もうひとつはどのような読み手なのかという属性の問題である。読み手が存在すること自体を認識するというのは、書き言葉の特性もしくは制約を認識することである。読み手とは書き手である自分とは別個の言語主体であるから、持っている背景知識や経験が異なる。また、目の前の相手に筆談する場合を除いて、読み手は自分の目の前にはいないわけだから、その場の空気で以心伝心というわけにもいかない。芳賀(1969)は、頻繁に顔を合わせる親しい人であっても、自分の書いた文章にどう反応するかは分からないと指摘している。樺島(1973)は、文章を書くときに自分に分かっていることを省略しがちであると指摘している。しかし他人は自分と同じではないから、それでは他人は理解してくれないという。
樺島の指摘に忠実であろうとすると、読み手一般という漠然とした捉え方では十分ではないことに気付かされる。樺島も読み手の持っている知識や経験がどのようなものかが分かれば、その知識や経験に訴えることで読み手が理解しやすくなると述べている。芳賀(1969)に至っては、読み手の性別、人数、年齢、性格、趣味、考え方、感受性、自分との関係、さらには読む場所や時間などを考慮すべきだという。芳賀の主張はもっともだが、もう少し体系化したい。高橋(2004)はテクニカルライティングの立場からまず、特定の読み手を想定すればよいのか、不特定の読み手を想定しなければならないのかを考えるべきだという。社会生活で文書を作成する場合は保存が前提となる場合が多く、その場合の読み手は不特定多数となりうる。不特定の読み手を対象とする文章を書く際には、主な読者層を把握し、そのうえでその読み手の知識レベルや知りたがっていることを念頭に置くべきだと高橋は主張する。読み手が知りたがっていることは何かというのはもちろんテクニカルライティングの発想である。照屋(2006)はもう少し広い観点から、読み手にどのような反応を期待するのかを書き手が考慮すべきだと言う。
参考文献
- 芳賀綏(1969)『上手な自己表現・文章法入門』池田書店.
- 樺島忠夫(1973)「文章の叙述のスタイル」『国文学』18(12) pp.31-36.
- 高橋昭男(2004)『日本語テクニカルライティング』岩波書店.
- 照屋華子(2006)『ロジカルライティング』東洋経済新報社.
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