持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2006-01-01から1年間の記事一覧

語学が嫌い

実は、語学が嫌いです。なんで「語学」なんでしょうね?この言い方は言語学習を不当に高尚なものに仕立てている気がします。さらに、語学を教える教師がきわめて知的であるという誤った印象すら与えかねません。また、新しい言語を学ぶときに、必要以上に敷…

編集開始!

これまで断片的考察を次々と、だらだらと、まったりとアップしてきましたが、ブログを開始して来月で1年を迎えます。そこで、これまでのエントリーを読み直し、編集していく作業を少しずつ始めようと考えております。ここまで得た知見をまとめ直し、ブログ…

生成文法の「表示レベル」と学習文法

生成文法から学ぶこと 千葉(1982)は、英語教育が生成文法から学ぶことができることは大きく分けて2つあると述べている。1つは生成文法理論に見られる言語観に関する事柄であり、もう一つは生成文法理論の発展過程で明らかになった言語事実に関する事柄であ…

コクゴキョウイク1960

高等学校学習指導要領「国語科」の改訂をめぐって 1960年3月に「高等学校教育課程の改善について」が答申され、これに伴う国語科の学習指導要領改訂によって、「現代国語」が独立した科目として新設されることとなった。この年は国語教育の現代化にとって大…

核文と深層構造

1960〜70年代における、変形文法*1の英語教育への応用 1960年代から70年代にかけて、変形文法を英語教育に取り入れようとする動きが見られた。その理由として大沢(1971)は、変形文法が従来の文法よりも構文と構文との関係を軽快にカツ統一的に説明しているこ…

学習文法における「入力」

ここで論じることは、以前扱ったものに対する補足的な内容となっています*1。 反クラッシェン的見解 井狩(2006)は、脳科学の立場からKrashenの見解を否定している。脳全体、特に前頭前野が活発に活動する意識的な処理から、脳の一部のみが活動する無意識的な…

ちょっと気になること

『英語教育』の古い記事を読んでいたら、気になることが出てきた。といっても、以前から関心を持っていたことでもあるのだが。 訳読をめぐる議論 河上(1967)は、日本人が英語を読む力が弱い理由を、読むという作業が「訳読」に終始しているためであると指摘…

学問としての英語?(続き)

「学問としての英語」とほぼ同義と思われる表現に「言語学としての英語」という表現がある。やはり「コミュニケーションとしての英語」や「道具としての英語」と対立する概念を指しているようである。しかし、言語学とは言語のありのままの姿を捉えるための…

チャンキング文法とシラバス

統語知識の提示 リーディングにおいてチャンキングを行うに先立って、文法知識をあらかじめ提示するかどうかに関して、大学受験対策など、学習期間が限られていて、しかも学習者の母語がある程度完成している状況では、先行提示は有効であると考える。方法論…

学問としての英語?

世の中には妙な言い回しがある。その中の1つに「学問としての英語」というのがある。おそらくこの概念は、「コミュニケーションとして英語」と対立するものと思われる。後者も後者で「コミュニケーション」の英語と言っても英会話*1程度の意味なのだが、前…

チャンキング文法④

複文構造におけるチャンキングと日本語(続き) S+V+thatの場合(続き) S+V+thatの主節表現の中には、中右(1994)のいう「Sモダリティ」相当する表現が含まれている。モダリティの把握はテクストの書き手の意図を把握する上で重要であるから、S+V / that...…

チャンキング文法③

チャンキングと日本語 英語のリーディングにチャンキングの考え方を応用していく場合、学習者は母語である日本語の助けを借りながら訓練していくことになる。文単位での和訳と違い、チャンク単位での和訳では日本語の語順を過度に意識しなくても意味処理が行…

チャンキング文法②

断片化の文法と断片連鎖の文法 深谷・田中(1996)によれば、「チャンキング」には発話単位を生成する「局所的チャンキング」と、発話単位を拡張して情報の追加・修正を行っていく「拡張的チャンキング」があるという。リーディングにおいて局所的チャンキング…

チャンキング文法①

チャンクとチャンキング 英文を構造規則などに従ってスラッシュで切り取り、断片化したものがチャンクである。そしてチャンクごとの理解内容をつなぎ合わせていくことがチャンキングである。このチャンクという視点で学習文法の再構築を試みたのが田中(1993)…

文法にこだわらない読み方?

スラッシュを入れて読むときの問題点 スラッシュ・リーディング、フレーズ・リーディング、チャンク・リーディング。呼び方はさまざまであるが、英文を語順に即して読む際にスラッシュを入れていくことは、情報処理単位を意識しやすくするためには有効である…

温故知新―『奇跡の英文解釈』を読む②

内容スキーマの重視 長崎(1977)に収められている練習問題で興味深いものは、定義が述べられている短い文章を読み、それが何の定義なのかを答えさせる問題である。この練習問題は内容に基づいて配列されている。英文解釈というと、それまでは原(1991)のような…

温故知新―『奇跡の英文解釈』を読む①

隠れた名著 『奇跡の英文解釈』(長崎玄弥著、祥伝社、以下長崎(1977))は受験参考書でありながら、当時の受験参考書とは一線を画す内容となっている。当時の学校文法の枠組みにこだわっていないし、訳読式でもない。だが、同じ年に出た『英文解釈教室』(伊…

試験対策におけるaccuracyの確保

出題傾向とreading skills 大学入試に限らず、英語の試験の多くでは、マークシート解答用紙が使用されている。本来は採点の便宜を図るものであったが、この方式の導入によって必然的に記述式の問題が排除されることとなる。記述式の問題が消滅すると、下線部…

学習経験と雑感

いまどきのリスニング 昨年の暮れのことだが、現在NHK教育テレビで「新感覚☆キーワードで英会話」の講師を務める河原清志先生が、『「シャドーイング」と「サイトラ」で鍛えるVOAスタンダード』(稲生衣代・河原清志著、コスモピア)を送ってくださっ…

スッキリしたい受験英語、さっぱりしたい受験英語

スッキリしたい受験英語 受験英語の学習は、他科目の学習と平行して進めていくことが多い。理系の科目はもちろん、文系の地歴・公民科の科目も含めて知識科目については、体系的にリクツでスッキリと理解できることが多い。しかし、英語や国語はその点どうも…

情報処理単位としての読解文法④

統語ストラテジーと意味ストラテジー テクスト・談話レベルではない、文レベルの読解ストラテジーには、語彙的なものと文法的なモノがあり、文法的なものにはさらに、統語ストラテジーと意味ストラテジーがある(天満1989)。このうち、統語ストラテジーには…

情報処理単位としての読解文法③

動詞の重要性 読解文法の導入あたっては、薬袋(1995)のように主語よりも述語動詞の認識を優先させているものもある。形式的な観点から言えば、薬袋の主張の通りで、述語動詞(定形動詞)と準動詞(非定形動詞)を識別することは確かに重要である。意味論的観…

情報処理単位としての読解文法②

英文の基本構造の導入 英語の文を基本構造から導入する場合、文が主部と述部から成り立つ、というところから導入されることが多い。しかし、この文法用語がその後使用されることがほとんどない。主部と述部で文を2分する場合、主部の中核を成す語を主語、述…

情報処理単位としての読解文法①

初学者へのボトムアップ・シラバス 英語と語順を異にする日本語を母語とする学習者が新たに英語のリーディングを学んでいく場合、まずは英語と日本語の語順の違いから学んでいくべきである*1。この場合、従来は英語の構文を学ぶことに終始することが多かった…

階層意味論と情報処理単位

階層意味論の考え方 階層意味論(Hierarchial Semantics)とは、中右(1994)が提唱した理論であり、当時の統語理論では説明しにくかった文法現象を説明可能にするために当時主流であった統語論の修正・精緻化という方法に代えて構築したものである。 階層意味…

直読直解の単位

直読直解とは何か 「直読直解」という用語には2つの意味がある。1つは英文を語順通りに読んで理解することで、漢文訓読的な返り読みと対立する概念である(寺島2002)。もう1つは、外国語で書かれた文を母語を介さずに理解する、つまり英語を英語で理解す…

キャッチフレーズ式の英語教育?

なんだか分からないうちに・・・ 文法偏重じゃない、訳読中心じゃない、今風で、おしゃれで、トレンディーな英語教育には、キャッチフレーズがつきまとうことが多い。 キャッチ-フレーズ [5] [catchphrase]宣伝・広告などで,人の心をとらえるように工夫さ…

単語学習を考える

語彙能力とその習得 外国語学習において、語彙の学習が占める比重は決して小さくない。しかし世間で詰め込み学習の象徴のように言われる受験英語においても、単語学習に関して大きく扱われる機会は少ない。文法と比べればその差は歴然としている。これは教室…

実録・大学受験の読解指導

構文派とパラリー派の狭間で私の選択 前にも書きましたが、私は受験英語における「構文派」と「パラリー派」という対立軸そのものがおかしいと考えています。日本人が母語である日本語とは体系を著しく異にする英語で文章を読もうとする場合、語順を中心とし…

久々の大学受験指導

今年度は、久しぶりに大学受験指導の仕事もやっている。「久しぶり」というのは、実は語弊がある。というのも、大学受験の対策をまったくやっていなかったのは昨年度だけで、細々とは続けていた。しかしシラバスから教材まで任されての仕事は久しぶりなので…