情報処理単位としての読解文法③
動詞の重要性
読解文法の導入あたっては、薬袋(1995)のように主語よりも述語動詞の認識を優先させているものもある。形式的な観点から言えば、薬袋の主張の通りで、述語動詞(定形動詞)と準動詞(非定形動詞)を識別することは確かに重要である。意味論的観点から見ても動詞は重要で、阿部(1998)は動詞を扱うために、全体の4割の紙幅を費やしているほどである。
文の中で動詞が重要であるのは、主に2つの理由による。1つは文型を規定する語であることで、もう1つは時制や相に関わる語であることである。薬袋(1995)が述語動詞と準動詞の区別を強調したのはこの後者の理由によるところが大きい。文型との関係に関しては、阿部(1998)でおぼろげながら、動詞が文型を決定することを指摘し、阿部・持田(2005)でその一部を具体的に示している。また、田中(1993)は動詞が要求した情報を名詞句や副詞句によって満たすことによって文が成立することを指摘している。こうした動詞の働きを田中・深谷(1998)では「図式構成機能」(schema-forming function)と呼んでいる。この考えに立てば、読み手はS+Vを把握した時点で、後続する情報を予測することができ、その情報を表す形式を把握することで語順に即した理解が可能になることになる。
動詞のコアと図式構成機能
動詞が文型を決定すると考える場合には、動詞の意味が文型を決定すると考えるのが自然である。では田中(1990)の言う「コア」が文型を決定するのかというと、そうではない。田中は「コア」を文脈に依存しない意味(context-free/context-independent meaning)と定義している。例えばbreak(X,Y)であれば、XとYの値を捨象したものがコアということになる。これを文型との関係から捉え直すと、コアは、いかなる文型とも直接的には関係がないということになる。少なくとも[動詞V(X,Y)]という命題構造はすべての動詞に適用できるというのが、コア分析を支える考え方であり、阿部(1998)がすべての動詞に他動詞性を認めているのも、こうしたコア分析の考え方を反映したものである。
このようにコアとは文脈を捨象した意味であるが、実際に書かれた英文は文脈を捨象したラングではなく、文脈に依存したパロールである。現実には、それぞれの動詞には典型的な用例があり、そうした典型的な用例に共通する範型がある。これがプロトタイプ概念と呼ばれるものである。プロトタイプとはコアに至る抽象化・一般化に至る過程で纏め上げられた用例・語義群(クラスタという)のうち、最も典型的なものをいう。学習者は、自らの学習経験またはコーパスによって教師が抽出し、提示したプロトタイプを学ぶことによって、動詞の図式構成機能を利用することができるようになる。
参考文献
- 阿部一(1998)『ダイナミック英文法』研究社出版.
- 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社.
- 薬袋善郎(1995)『英語構文のオリエンテーション』駿台文庫.
- 田中茂範(1990)『認知意味論:英語動詞の多義の構造』三友社出版.
- 田中茂範(1993)『発想の英文法』アルク.
- 田中茂範・深谷昌弘(1998)『〈意味づけ論〉の展開』紀伊國屋書店.
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