情報処理単位としての読解文法④
統語ストラテジーと意味ストラテジー
テクスト・談話レベルではない、文レベルの読解ストラテジーには、語彙的なものと文法的なモノがあり、文法的なものにはさらに、統語ストラテジーと意味ストラテジーがある(天満1989)。このうち、統語ストラテジーには次のようなものがある。
- 冠詞や数詞を新たな名詞句の始まりと考えて、その句の終わりを示す名詞を探す。
- 前置詞を新たな前置詞句の始まりと考えて、その句の終わりを示す名詞を探す。
- 時制を伴う助動詞を新たな動詞句の始まりと考えて、その句の終わりを示す主動詞を探す。
- 関係詞を関係節の始まりと考えて、その主語と述語を探し、その節が修飾する語を探す。
- 従属接続詞を新たな節の始まりと考えて、その節の主語と述語を探す。
- 最初の節は、主節でないという標識がない限り主節と考える。
- 「so+形容詞/副詞」であればthat節を、「too+形容詞/副詞」であればto不定詞を、後続するものと予測する。
これらは、天満(1989)を元にまとめたものである。このうち、関係詞に関わる4.のストラテジーでは関係詞節を認識した後に先行詞を把握する手順になっており、返り読みを要求している点で問題が残る。
一方、意味ストラテジーは、内容語の意味から命題内容を纏め上げるものである。また情報構造に着目して文を理解していくことも意味ストラテジーに含まれる。このうち、前者の内容語から命題を纏め上げていくストラテジーは、必ずしも語順通りの理解を保証するものではない。
断片化と断片連鎖の文法ストラテジーとは
文を情報処理単位として切り取る「断片化」と、情報処理単位ごとに理解した内容をそれ以前の理解内容や背景知識と照合させながら理解内容を纏め上げていく「断片連鎖」を可能とする文法ストラテジーは、統語的なものと意味的なものの両方を取り込んだものでなければならない。というのは、語順に即して情報処理単位ごとに英文を理解していくには、予測と確認というプロセスを経なければならず、予測と確認は純粋に統語的に行われる場合とそうでない場合とがある。純粋に統語的な予測が不可能な場合は、意味的な要素に頼らざるを得なくなる。例えば、前置詞の後に名詞が続くことを予測することは純粋に統語的であるが、動詞の後に名詞が続くことを予測するには統語的知識だけでなく、動詞の意味に依存するところが大きい。
文の理解過程とは、言語形式から意味を把握する過程と考えられがちである。たしかに個々の情報処理単位の中の理解過程はその通りである。しかし、ある情報処理単位から次の情報処理単位へ遷移する過程はそうではない。言語形式から意味を捉えた瞬間に、その意味に付け加えられるべき意味が喚起される。すると次に捉えるべき意味がどのような言語形式で表されるかを想定し、その言語形式を探していくことになる。
[形式1→意味1]→[予測意味2→予測形式2]→[確認形式2→確認意味2]…
これをスラッシュリーディングに連動させると、目を止めて理解するときは[形式1→意味1]という処理が行われ、スラッシュを入れて目を動かしているあいだに[予測意味2→予測形式2]という処理が行われていると考えることができる。
参考文献
- 天満美智子(1989)『英文読解のストラテジー』大修館書店.
- 作者: 天満美智子
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 1989/03/01
- メディア: 単行本
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