持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

スッキリしたい受験英語、さっぱりしたい受験英語

スッキリしたい受験英語

受験英語の学習は、他科目の学習と平行して進めていくことが多い。理系の科目はもちろん、文系の地歴・公民科の科目も含めて知識科目については、体系的にリクツでスッキリと理解できることが多い。しかし、英語や国語はその点どうもスッキリしない感覚が、受験生にはある。
1970年代後半から1990年代前半にかけての受験英語は、まさに受験生のスッキリ感を充足させるためのものであったといえる。スッキリ感を満たすために予備校講師が考えたことは、「フィーリング」と呼ばれる、感覚的な要素の排除であった。そのためには文法知識を英文の分析に適用する手続きを明確化することが必要であった。それ以前の受験英語も文法訳読式であったが、文法知識を英文の分析に活かすという点では、曖昧なところが多く、学習者からすればただ単に訳文を聞かされているようにしか感じられなかったようである。
英文の分析手順を明確化していく過程で、文法における分類の基準を明確にしていく必要が生じた。受験英語で「識別」という概念が急速に広まっていったのはそのためである。このような受験英語のシステムが完成しつつあった時期は、「団塊ジュニア世代」の受験期と重なり、競争激化を背景に高学力化した学習者層が形成されていった。受験英文法は英文を理解するために明確化・精緻化されいったが、こうした高学力層にはそれを受け入れるだけの学力があったし、またそうしなければ受験競争を勝ち残ることができなかったため、歓迎されていった。

さっぱりしたい受験英語

スッキリしたい受験英語とは、暗記地獄から受験生を解放することも目的としていた。しかしその過程で文法体系の精緻化を余儀なくされたため、暗記の負担の軽減は必ずしも実現しなかった。また統語分析を中心に据えた受験英語は学習者に理解力や分析力を要求するものであったた。このため、受験競争が鎮静化に向かうと、受験生の学力も低下し始めると、受験英語のシステムは見直しを迫られることになった。
1990年代に入ると、認知意味論の立場から語彙や文法の学習を捉え直す動きが出てきた。ここから分類・識別の流れから、文法や語彙の知識を統一的、統合的に捉えようとする受験英語が現れた。基本動詞や前置詞の意味論の研究成果が明らかになるにつれて、イディオムの学習の効率化が図られた。文法に関しても動詞に関わる文法事項を中心に知識のスリム化が図られ、入試問題における「語法問題」の出題が増加するに伴って、受験生に受け入れられるようになっていった。

これからの受験英語

塾や予備校の講師になるには、特に資格は不要である。中学や高校の英語教師の大半が教員免許保持者であることと比べると対照的である。中高の教員は授業以外の校務に追われることが多く、学習指導の見直しに割ける時間は必ずしも多くない。これに対して塾・予備校講師は担当科目を教えることに多くの時間を割くことができる。しかしながら、英語学や英語教育の基本的知識を持っている者は少ないので、これまでの方法論のマイナーチェンジはできても、フルモデルチェンジはなかなかできないのが現実である*1
これからの受験英語は学習法、指導法を根本から見直し、入試対策を第一の目的としつつも、大学入学後の英語力の基盤となるような能力が身につくようなものにしていくべきである。そのためには語彙や文法の学習をよりいっそう効率的なものとし、読解や作文のための論理・修辞を身につけさせ、そうした知識を駆使したストラテジーが運用できるようにシラバスデザインを考えていく必要がある。

*1:ただし、一部に研究熱心な先生方がいるのも事実である。