持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文法用語について

文法用語の増殖

学習文法理論ではさまざまな文法学習に対応できるような記述と体系化が求められる。明示的な文法指導において、ある程度の文法用語の使用は避けられない。しかし明示的な文法指導であっても、文法用語は少ない方がよい。若林(1990)には、語学教育研究所が1984年に発表した「中学校・高等学校における文法用語101」が示されている。若林によれば、101の文法用語は1000を超えるものを検討のうえ絞り込んだ結果ではあるが、妥協の産物であるとも述べている。
文法用語の扱いには次の2つの点に留意しなければならない。

  1. 本当に必要な文法用語以外は使用しない。
  2. 必要な文法用語に関しては学習者にその概念を的確に把握させた上で使用する。

だが、これが円滑には進まない事情がある。ひとつには塾や予備校の現場の問題である。伊藤(1997)は目新しい文法用語を予備校の教室で使うことは、受験生にとって一種の麻薬のような役目を果たすと指摘している。これは高校の授業とは違うことを教わることによって大学受験を乗り越えられるかもしれないという安心感をもたらすためである。もう一つは小寺(1996)が指摘するように、中学・高校の現場では「5文型8品詞」の枠組みを崩したくないという気持ちがあることである。これを崩すと現場に大きな混乱が起きるのではないかという不安を抱く教師も多いようである。
しかし伊藤の指摘で明らかなように、大学受験を目指す生徒たちは自分にとって必要と感じれば従来の枠組みとは違う文法も受け入れてしまう。また寺島(1986)が指摘するように、低学力の生徒では現行の枠組みを理解するのに苦労をしている。このように考えると、文法用語見直しで文法の学習が効率的になるのであれば学習者は歓迎すると思われる。教師の意識さえ変われば文法用語の見直しは可能である。

学校国文法の問題

「名詞」や「動詞」などの品詞に関わる文法用語は小学校でも国語の授業で導入されているということで、無意識に用いられがちである。しかし日本語と英語との違いを踏まえないで同じ用語を機械的に当てはめることは危険である。そのうえ国語教育における現代語文法は現代の日本語の現実を的確に捉えているものとは言い難い。金水(1997:122)は「学校文法の現代語文法は実は古典文法を導入するために仮構された悪しき折衷と妥協の産物であり、辞書の品詞分類以外にはほとんど役に立たない。」と指摘している。

英語教育と国語教育

文法指導において、本来であれば英語教育と国語教育の連携が望ましい。しかし国語教師で日本語文法に関心を持つ者は、英語教師で英文法に関心を持つ者よりもはるかに少数派であり、現時点では連携は現実的でない*1。それよりも明示的な文法指導の際に、学習者に対して、日本語の構造や意味への意識をいったん喚起させて、そのうえで英語の言語現象に目を向けさせるようにすることが重要であると思われる。そのためには英語教師も日本語文法の研究に関心を持ち、英語の学習文法に取り込んでいくことが必要である。

参考文献

  • 伊藤和夫(1997)『予備校の英語』研究社出版
  • 金水敏(1997)「国文法」益岡・仁田・郡司・金水『文法』(岩波講座・言語の科学5)岩波書店
  • 小寺茂明(1996)『英語教科書と文法教材研究』大修館書店.
  • 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
  • 若林俊輔(1990)『英語の素朴な疑問に答える36章』ジャパンタイムズ

予備校の英語

予備校の英語

*1:ただし、英語教師と国語教師が個人レベルで意見交換を行いお互いの教育の質を高めていくことは必要である。