持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

学習経験と雑感

いまどきのリスニング

昨年の暮れのことだが、現在NHK教育テレビで「新感覚☆キーワードで英会話」の講師を務める河原清志先生が、『「シャドーイング」と「サイトラ」で鍛えるVOAスタンダード』(稲生衣代・河原清志著、コスモピア)を送ってくださった。この本にはCDが付いているが、このように現在では英語の音声教材はデジタル録音されたものが当たり前となっている。なかにはセンター試験の問題のようにmp3ファイルのようなデータになっているものまである。日本の英語教育がかつて読み書き中心と言われたのは、教師が話せないことに加えて音声を再生する機材が普及しておらず、オープンリールで授業をしていた教師がいた時代と比べれば隔世の感がある。

私のリスニング体験

私は第1次オイルショックの少し前に生まれた人間だから、オープンリールで英語を学んだ経験はない。だが、中学の英語の授業にはリスニングはなかった。あったのはヒアリングである*1。そして当時は衛星放送も今ほど普及していなかったので、英語が聴けるメディアと言えば、FEN(現AFN)や地上波の2か国語放送が主なものであった。VOA短波ラジオで聴かねばならなかった。
FENがネイティブによるネイティブのための放送であったのに対し、短波の英語放送は国際放送という性質上、ノンネイティブが聴取することを想定したスピードで話されていた。またVOAにはSpecial Englishという使用語彙のレベルやスピードを落とした放送があったので、私は中学時代にこれをよく聴いていた。しかし、日本時間で20時台だったと思うが、Special Englishの番組の後にNow Music USAというBillboard chartの上位曲をオンエアする番組があった。こちらはStandard Englishであったが、興味本位で聴いていた。短波放送は電波の性質上音が大きくなったり小さくなったりするし、送信所が遠い*2ため雑音も多かった。でも日本語だって雑音の中から声を聞き取ったりすることがあるのだから、多少の雑音でも英語を聞き取れるようになるはず、と考え、毎回放送を聴いていた。
短波での音楽放送はBBC World ServiceにもMultitrackという番組があってこちらはBBCのチャートの曲をオンエアしていた。この手の音楽番組の聴き取りは簡単で、何位に誰の何という曲がランクインしているか、ということが分かればよい。しかも実際には自分が気に入った曲の情報だけ分かればよいのだから、何も身構えることはないのである。

最近のリスニング学習に思うこと

私が英語を学び始めた頃に比べ、現在ではリスニングの学習環境が理論的にも整備されている。ただ聴いて慣れるだけという学習から、何をどう聴けば効果的なのかが明確になることで、学習者の心理的な負担もかなり軽減されるはずである。しかし、音声教材の音質向上に関しては両手を挙げて歓迎とは言い難い。教材を「商品」と考えれば、この傾向は当然である。だが、「雑音のせいで聴き取れなかった」などという神経質な学習者が増えているとしたら残念なことである。生きたコミュニケーションでは音声の伝達を妨げる要因はいくらでもある。ふだんのリスニング学習の中で、そうした阻害要因に慣れていくことも必要なのではないかと思うこの頃である。

・・・と思いながら、私もリーディングの教材の文字間隔やフォントを気にしたりしている。リーディングも考え抜かれたDTPによる教材よりも、ガリ版の教材の方がいいのかもしれない。

VOAスタンダード ニュース英語トレーナー

VOAスタンダード ニュース英語トレーナー

VOAスペシャル やさしいニュース英語トレーナー

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*1:この意味でヒアリングという言葉を使うのは死語ですね。国電なみに死語だと思います。

*2:どこか太平洋上にあったはず。