持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

試験対策におけるaccuracyの確保

出題傾向とreading skills

大学入試に限らず、英語の試験の多くでは、マークシート解答用紙が使用されている。本来は採点の便宜を図るものであったが、この方式の導入によって必然的に記述式の問題が排除されることとなる。記述式の問題が消滅すると、下線部和訳のような出題形式は廃れ*1、Q and AやTrue or Falseの方式の問題が主流となる。
こうした出題傾向のもとでは、1文1文の正確な理解よりも、文章全体の内容を大づかみにしたり、設問で要求される情報を問題文中から探し出すという、スキャニングやスキミングといったスキルを身につけることが受験生の求められるようになる。受験英語の世界で速読とかパラグラフ・リーディングといったものが支持されるようになったのは、こうした背景によるものである。

正確なスキャニングへ向けての課題

Q and AやT or Fの問題の多くを占めるFinding Facts型の問題では、スキャニングは非常に有効なスキルである。しかし、スキャニングができればこの種の問題に正解できるかというと、必ずしもそうはいかないことも少なくない。これは選択肢が主に「文」である場合に生じる現象である。
スキャニングによって設問が要求する情報を発見した場合、その箇所と選択肢を照合し、内容的に合致するものを選ぶ必要がある。このときに選択肢が短い語句であれば、語彙の知識だけで選択肢の適否が判断できることが多い。しかし、選択肢が文である場合には、文法知識を持ち合わせていなければ、選択肢の適否を判断することができない。ここで求められるのは、下線部和訳で求められるのと同じ、「1文を理解するための知識」である。
問題文にアンダーラインが付されていないと、細かいところに気を取られないで読んでいくことが必要であると考えがちであるが、実際には一定の精読力がなければこうした問題に正解することはできない。もちろんこのことは文法訳読型の受験英語学習が最善であるということを意味するわけではない。ひとたび文構造からパラグラフ構造を経て文章構造を学んでいくという、ボトムアップ式の構造スキーマ学習を経た後は、スキミングやスキャニングといったスキルを駆使して入試問題を解きつつも、随時言語形式にも意識されるような練習問題を織り込んでいくという、Focus on FormsとFocus on Formの折衷的なアプローチが受験英語指導に求められていると言える。

*1:1970年代から1990年代にかけての上智大学のように、マークシート方式のもとで下線部和訳問題を多肢選択式で出題されることもある。