チャンキング文法①
チャンクとチャンキング
英文を構造規則などに従ってスラッシュで切り取り、断片化したものがチャンクである。そしてチャンクごとの理解内容をつなぎ合わせていくことがチャンキングである。このチャンクという視点で学習文法の再構築を試みたのが田中(1993)である。しかし田中他(2005)や田中・佐藤・阿部(2006)などにおける理論的な整備の中では、チャンクの文法についてはある程度具体的に論じられているものの、チャンキングの文法に関しては詳述されていない。
チャンキングの文法について詳述されないのには理由がある。田中他(2005)ではチャンキングを、チャンク同士を連鎖的につなげる作業と定義しているが、実はこれはチャンキングという過程の一面に過ぎない。深谷・田中(1996)ではチャンキングを意味を纏め上げる機制と定義している。これはチャンクをつなぎ合わせるだけでなく、チャンクそのものを生成することもまた、チャンキングであることを意味する。深谷らは前者のチャンキングを「拡張的チャンキング」、後者のチャンキングを「局所的チャンキング」と呼んでいる。つまり、局所的チャンキングによってチャンクが生じ、そのチャンクを拡張的チャンキングによってつなぎ、纏め上げることでより大きなチャンクが作られていくのである。こうしたチャンキングの過程は情況の影響を受けやすく、文法規則によってのみ支配されるものではないというのが深谷・田中(1996)の見方であり、会話の文法として出発したチャンキング文法がチャンクの文法にとどまらざるを得ないのも、こうしたチャンキングの持つダイナミズムのためである。
チャンキング文法
話をリーディングに移す。リーディングの場合、文を構造規則などによって分析する断片化と、その断片ごとに処理した内容を纏め上げて文の理解、文章の理解へ至る断片連鎖の過程を経る。先ほどの田中・深谷(1996)の定義に従えば断片化も断片連鎖もチャンキングであり、チャンキングの文法もまた、次の2つの要素を満たしていなければならない。
- チャンクの内部構造を明らかにする。
- チャンク相互の関係を明らかにする。
1は情報処理という観点から見たときに、どのような語句のまとまりが最小単位となるかを明らかにする必要がある。また2では動詞と他の要素との文法関係や意味関係やその他の修飾関係のありようを記述していかなければならない。
深谷・田中(1996)ではチャンキング理論と時枝(1941)の入れ子構造(詞辞理論)を比較、検討している。そこで両者の相違点のうちの1つが、前者が詞+辞を一体的に捉えていることにあると指摘している。時枝(1950)がヨーロッパ語における前置詞や接続詞が辞と分類されると指摘していることと合わせて考えれば、[前置詞+名詞]や[接続詞+文]などは英語においてチャンクを形成するものといえる。特に前者のようなチャンクは情報処理上の最小単位と見なすことができる。
一方、チャンキング理論と時枝の詞辞理論との類似点としては、両者とも言語構造の階層性に着目している点が指摘されている。階層性への着目という視点に立てば、生成文法理論を援用する可能性も検討しなければならない。田中他(2005)では学習文法を次の4つの要素から構成されるとしている。
- 規則の文法(grammar of rules)
- チャンキング文法(chinking grammar)
- 語彙文法(lexically-based grammar)
- 表現文法(notional grammar)
この中でも特に、「規則の文法」や「語彙文法」を整備していくことで、断片化や断片連鎖に有益な文法知識が構築されていくと考えていくことができる。「規則の文法」は生成文法からの援用が有力であるのに対して、「語彙文法」は構文文法を含めた認知言語学やその背景となる格文法や生成意味論の知見を活かしていくことが妥当であると思われる。
参考文献
- 深谷昌弘・田中茂範(1996)『コトバの〈意味づけ論〉−日常言語の生の営み−』紀伊國屋書店.
- 田中茂範(1993)『発想の英文法』アルク.
- 田中茂範・アレン玉井光江・根岸雅史・吉田研作(2005)『幼児から成人まで一貫した英語教育のための枠組み:ECF』リーベル出版.
- 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導法:コアとチャンクの活用法』大修館書店.
- 時枝誠記(1941)『国語学原論』岩波書店.
- 時枝誠記(1950)『日本文法口語篇』岩波書店.
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