チャンキング文法④
複文構造におけるチャンキングと日本語(続き)
S+V+thatの場合(続き)
S+V+thatの主節表現の中には、中右(1994)のいう「Sモダリティ」相当する表現が含まれている。モダリティの把握はテクストの書き手の意図を把握する上で重要であるから、S+V / that...という分析は統語構造の分析としてだけでなく、文脈把握としても有効である。ただし、日本語でモダリティを担う表現は文末に来るものが多いため、文頭のS+Vのチャンクに対応する日本語表現に工夫が必要である。例えばI thinkであれば、「思うに」「たぶん」のような訳語がそれに対応するものと思われる。
S+V+wh-の場合
wh-節が目的語に来る場合も、S+Vを認識した段階でwh-節が後続する可能性の有無を予測できることが望ましい(阿部・持田2005)。この場合、疑問詞としてのwh-が後続する可能性について押さえておくと、それ以外の動詞でwh-節が生じた場合はそのwh-語が関係詞であり、節全体が〈質問〉ではなく〈モノ〉を表しているということに即座に気づくことができる。
断片化の方法としては、wh-節をひとまとまりと捉えるためにS+V / wh-...という分析が考えられる。しかしthat節と比べてwh-節では節の内部の理解を難しく感じる学習者が多い。このため、あらかじめwh-節の仕組みについて理解させておくと同時に、S+V / wh-word / ...のようにwh-語のみを独立したチャンクとすることで断片連鎖を促進させることができる。例えば、I realized what he wanted.であれば、I realized / what / he wanted.//と分析し、「気づいたこと」/「何か」/「彼がほしがっていたのは」と処理することができる。このようにwh-語を独立チャンクとする分析は寺島(2002)などで提唱されている「記号研方式」の分析に近いと言える。wh-語のなかでも疑問代名詞や関係代名詞は節の中で主語や目的語の働きをするが、節中でいずれの働きをするかは読み進めてwh-語の痕跡を認識するまで分からない。このためチャンクごとの日本語訳が後戻りしなくてもすむように、wh-語のみからなるチャンクに「〜か」という訳語を与えるのである。
関係詞節の場合
関係詞節の場合、従来の学校文法では制限用法と非制限用法で訳出の仕方を分けるという考え方が広く受け入れられてきた。しかし、これは本来日本語に依存するはずの訳読において、著しく日本語を軽視し、破壊する結果をもたらした。亀井(1994)は英語では複文が多く用いられるのに対し、日本語では重文が多く用いられると指摘する。つまり、日本語で分かりやすい文を書くには単文を接続詞でつないだ重文を用いることが求められ、関係詞を含む複文を和訳する際にも、そうした重文表現に還元することが適切であると言える。この訳出法は簡単に言えば、関係詞節を頭から訳し下すと言うことである。そしてこの発想は、関係詞節を「後置修飾」という概念ではなく「追加情報」という概念で捉えていく発想と容易に結びつく(川村1994)。
五島・織田(1977)の指摘を待つまでもなく、関係詞節と疑問詞節は内部構造については同一である。そして関係詞と疑問詞もまた共通の語が多く用いられている。このような場合、いたずらに両者の違いばかりを強調したり、両者の文法用語を過度に意識させるのではなく、両者の共通点から出発する導入が功を奏す。実際、松永・河原(2003)は関係詞を疑問詞との連続性の中で捉えた説明を試みている。例えば、the boy who lives near my houseであれば、「男の子→(誰かというと、その子は)→うちの近くに住んでいる」という思考の流れで説明することができる。これをチャンキングに活かしていくと、the boy / who / lives near my houseと分析し、「その少年」/「誰かというと」/「うちの近くに住んでいる(少年)」と処理することができる。wh-語を独立したチャンクとするのは疑問詞の場合と同様である。
参考文献
- 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社.
- 五島忠久・織田稔(1977)『英語科教育:基礎と臨床』研究社出版.
- 亀井忠一(1994)『頭からの翻訳法』信山社.
- 川村正樹(1994)「情報追加プロセッサーとしての関係代名詞」『現代英語教育』31(7) pp.37-39.
- 松永暢史・河原清志(2003)『絵で英文法』ワニブックス.
- 中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店.
- 寺島美紀子(2002)『英語「直読直解」への挑戦』あすなろ社.
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