持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

チャンキング文法③

チャンキングと日本語

英語のリーディングにチャンキングの考え方を応用していく場合、学習者は母語である日本語の助けを借りながら訓練していくことになる。文単位での和訳と違い、チャンク単位での和訳では日本語の語順を過度に意識しなくても意味処理が行えるというメリットがある。しかし、チャンクごとの和訳をつなぎ合わせていく段階においては、まったく問題が生じないわけではない。田中・佐藤・阿部(2006)が提案しているように、教師の指導のもとでは学習者の断片連鎖を教師が支援していくことができる。だが独習の場合はそうはいかず、断片的な和訳を感覚的につなぎ合わせて感覚的な理解をして、その理解が誤解だとしても、それに気づかないおそれがある。こうした状況を回避するには、チャンキング文法を常に日本語と対比させながら記述・提示していく必要がある。

複文構造におけるチャンキングと日本語

句や節はチャンクとなる。従来の学習文法で節を導入する場合、対応する日本語はもとの英語とは語順が大幅に異なっていることが普通であった。語順に即した理解のための方略であるチャンキングには、当然ながらこのような従来型の節の考え方では対応できない。このため、語順通りに断片化する方法と、断片連鎖を支える和訳のあり方を学習者に提示できるような文法が求められる。

S+V+thatの場合

動詞の目的語となっているthat節を首尾良く処理するためには、S+Vを認識した段階でthat節が後続する可能性の有無を予測できることが望ましい。動詞の意味が文型を規定するという立場に立つと、学習者は動詞の意味からthat節が後続する可能性の有無を判断できるようになる。例えば、中島(1980)の用語でいうところの知覚動詞、思考動詞、認識動詞、告知動詞などがthat節をとることができる。これを学習者には「『わかる』『思う』『言う』という意味の動詞のあとにはthat節が続くことがある」などというように提示すればよい(阿部・持田2005)。
S+V+thatを断片化する場合、S+V / that...のようにthat節の直前にスラッシュを入れることになる。すると学習者はS+Vをまず和訳し、続いてthat以下の和訳をすることになる。従来の「返り読み」に基づく訳出法しか知らない学習者は、ここで躓くおそれがある。具体的な対処法としては、伊藤(1983)などで提案されている、S+Vの部分を和訳文の主語として括り出す方法が考えられる。He said that you were a fool.であれば、He said→「彼が言ったことは」/that you were a fool.→「お前がバカだということだ」といった具合になる。
接続詞のthatを代名詞のthatと連続的に捉えることによってこの問題を解決することもできる。宮下(1982)はthatを、実体を話し手との関係において捉える代名詞と分析し、He said that you were a fool.のthatもまた代名詞として分析している。宮下によれば、thatとyou were a foolは同一の対象を一方では総合的に、他方では分析的に表現しているという。この分析に従えば、「彼はそれを言った」/「それとはお前がバカだと言うことだ」という処理が可能となる。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • 伊藤和夫(1983)『英語長文読解教室』研究社出版*1
  • 宮下真二(1982)『英語文法批判:言語過程説による新英文法体系』日本翻訳者養成センター.
  • 中島文雄(1980)『英語の構造・上』岩波書店
  • 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導:コアとチャンクの活用法』大修館書店.

実践コミュニケーション英文法

実践コミュニケーション英文法

英語長文読解教室

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英語文法批判―言語過程説による新英文法体系 (翻訳の世界選書)

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英語の構造 上 (岩波新書 黄版 133)

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英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

*1:リンクは新装版のもので中身は変わっていません。