持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

階層意味論と情報処理単位

階層意味論の考え方

階層意味論(Hierarchial Semantics)とは、中右(1994)が提唱した理論であり、当時の統語理論では説明しにくかった文法現象を説明可能にするために当時主流であった統語論の修正・精緻化という方法に代えて構築したものである。
階層意味論ではまず、文の意味を「発話意味」と「構文意味」とに分けている。発話意味は構文意味と「談話モダリティ」(Discourse-Modality)から成り立っていると分析される。構文意味は「文内モダリティ」(Sentence-Modality)と全体命題から成り立っていると分析される。全体命題は中核命題に、肯定/否定の極性・時制・相といった演算子を加えたものである。

階層意味論におけるモダリティ

階層意味論におけるモダリティには談話モダリティと文内モダリティがある。このうち、文内モダリティは義務的意味成分である。つまり、文内モダリティは文を成立させる上で不可欠な要素ということである。実際、文内モダリティとして働く表現として中右が挙げているものの中には法助動詞や心的動詞節や遂行発話節のような「S+V+that...」の表現も含まれている。
文内モダリティが義務的意味成分であるのに対して、談話モダリティは随意的意味成分である。つまり、文法上どうしても必要なものではなく、文脈や場面と照らし合わせて使われる表現である。談話モダリティの中には発話の結束性などを確保するために使われる表現も含まれるため、一部に接続詞が見られるものの、その多くは品詞上は副詞的なものである。
中右によれば、こうしたモダリティは音調句(Intonational Phrase)を構成するという。田中・佐藤・阿部(2006)では息継ぎをチャンクの境界設定の条件と見なしており、モダリティとして機能する表現が1つの情報処理単位を構成すると考えることができる。またモダリティとして機能する表現の中には慣用化されたものも多く、慣用化された表現はチャンクと見なすという田中らの考えと符合する。

モダリティ論と情報処理単位

このように考えると、文を命題とモダリティに二分するという考え方が、リーディングにおける情報処理単位を明示的に指導していく上で有効ではないかという見通しが立ってくる。モダリティを構成する表現の中には心的動詞節のような「S+V+that...」のようなものがあるため、動詞の意味を軸とした文型論がやはり有効だと考えることができる。従来からの英文解釈を見直す視点がまた一つ増えたと言えよう。

参考文献

  • 中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店.
  • 田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導:コアとチャンクの活用法』大修館書店.