単語学習を考える
語彙能力とその習得
外国語学習において、語彙の学習が占める比重は決して小さくない。しかし世間で詰め込み学習の象徴のように言われる受験英語においても、単語学習に関して大きく扱われる機会は少ない。文法と比べればその差は歴然としている。これは教室で体系的に指導することが可能な文法と異なり、単語は学習者個人で暗記するものであるという考え方に基づいていると言えよう。
こうした考え方に対して田中・川出(1989)は批判的な立場をとる。田中らは、単語をただ何語知っているかということよりも、個々の単語の持ち味(意味)を理解し、単語間の関係を捉えることが重要であると唱える。前者の「単語の持ち味」とは、田中(1990)でいうところの「コア」であり、文脈に依存しない意味のことである。後者の「単語間の関係」とは、田中の用語では「ネットワーク」ということになる。ネットワークには縦、横、斜めの関係がある。例えば、takeとholdはともに基本動詞性の高い動詞であるから、これらは横の関係である。これに対してseizeという動詞はtakeの意味のうちのある一面のみを具体的に示している動詞であるので、takeとseizeは縦の関係である。しかしseizeはtakeだけでなくholdとも関連性がある、この関係が斜めの関係である。
このようなコアやネットワークの考え方に根ざした単語学習は、語彙力の量的側面よりも質的側面に焦点を当てたものであると言える。ネットワークの考え方は、関連語を一気に覚えていくことを可能にするという点では、量的側面にもつながるものである。しかし、ここでまとめて覚える利点は、本来それぞれの語の意味の違いに気づきやすくすることにあるのだが、基本語と違って綴りの長い語をまとめて覚えていく場合には、どうしてもある程度の混乱は避けられないのではなかろうか。もしネットワークを拡張していく際に、学習者がそうした混乱を生じさせてしまう場合であっても、コアやネットワークの考えが無駄になるわけではない。ネットワーク学習を下支えするものがあればよいのである。
語源から学ぶ?
英単語を量的側面に焦点を当てる学習法としては、語源分析に基づく暗記法が以前から行われている。確かに、英語の語彙に見られる語根、接頭辞、接尾辞はギリシャ語、ラテン語、フランス語などに端を発するものが多い(クレパン1980)。しかし、そうした諸言語の綴りのまま必ずしも英語に取り込まれたわけではないし、語根や接辞と現代英語の独立形態素(=そのまま単語として使えるもの)の意味とが一対一で必ずしも対応するわけでもない。
この方法を効果的に行えるようにするには、共時的な観点からの派生形態論(=語形成)に基づく語の成り立ちに習熟させる必要がある。また、形態論とは文で言うところの統語論に相当するものであり、語根と接辞を意味論的な観点から分析し、それぞれの形態素のコアを正しく分析することも必要である。形態素の意味をも分析し、語彙学習に役立てようという動きは上野他(2006)などに見られ、形態素の纏め上げて語のイメージを捉えさせる試みも政村(2002)などに見られる。これらの試みを踏まえ、より正確な分析に基づいた、より学びやすい語彙体系を学習者に提供していくことが、この分野の今後の課題だと言えよう。
参考文献
- クレパン, A. (1980)『改訂新版英語史』西崎愛子訳 白水社.
- 政村秀實(2002)『英語語義イメージ辞典』大修館書店.
- 竝木崇康(1985)『語形成』大修館書店.
- 田中茂範・川出才紀(1989)『動詞が分かれば英語がわかる 基本動詞の意味の世界』ジャパンタイムズ.
- 田中茂範(1990)『認知意味論:英語動詞の多義の構造』三友社出版.
- 上野義和・森山智浩・福森雅史・李潤玉(2006)『英語教師のための効果的語彙指導法』英宝社.
- 作者: アンドレ・クレパン,西崎愛子
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