持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

日本語−総合

言語教育におけるtranslationとその周辺(その5)

実例の検討 まずは川端康成の『雪国』の冒頭を引用する。 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 伊藤(1999)が言うように、この文を読んで意味不明と感じる日本語母語話者は皆無であろう。しかし、この表現を英語のように分析的に捉え直そうとすると、…

言語教育におけるtranslationとその周辺(その4)

言語文化と文構造(続き) すでに述べた通り、事態を起因に拘って因果律に分析する英語は、事態把握の仕方がSVOという形式に反映されている。英語は水谷(1985)が言うように「事実指向型」の言語であるが、事態がひとたび言語化されると、今度は統語的整合性…

言語教育におけるtranslationとその周辺(その3)

言語文化と文構造 デジタル型の言語技術が尊重される低コンテクスト文化で用いられる英語と、相手の考え・感情を尊重する高コンテクスト文化で用いられる日本語とでは、文の構造にも違いが見られる。これは単にSVO型かSOV型かという語順の違いに留まらない。…

言語教育におけるtranslationとその周辺(その2)

言語と思考 日本語と英語の違いを考えるにあたって、言語と思考の関係から切り込んでみることにしたい。まずは古典的だが中島(1949)を引用する。 言語は思考の必然的な流出ではなく、思想の伝達手段として、それも多かれ少なかれ不完全な手段として発達した…

言語教育におけるtranslationとその周辺(その1)

訳読を見直す まず、訳読の定義としては、「英語の文章を読み、それもかなり難しい文章を読んで、日本語に訳していく学習方法」(山岡2009b: 3)を採用することにする。山岡の訳読の定義は比較的広い意味を持っており、山岡自身も「訳読とは要するに、学習目…

第3回町田研究室修了生研究会発表資料

2013年7月20日に研究室のOBOGによる研究会で発表しましたので、ハンドアウトの本文を掲載いたします。 「グローバル化」と国語教育・英語教育 教育再生実行会議の提言 昨年末に政権が交代して以来、「成長戦略」という言葉を頻繁に耳にするようになった。教…

平成10年告示高等学校学習指導要領「国語」における「国語総合」

1 目標 国語を適切に表現し的確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力を伸ばし心情を豊かにし,言語感覚を磨き,言語文化に対する関心を深め,国語を尊重してその向上を図る態度を育てる。 2 内容 A 話すこと・聞くこと 次の事項に…

平成元年告示高等学校学習指導要領「国語」における「現代語」

ちょっと気になったので引用しておきます。再評価すべき科目だと思います。 1 目標 国語を的確に理解し適切に表現するために必要な知識、技能を身に付けさせるとともに、言語に対する関心を高め、現代の国語の向上を図る態度を育てる。 2 内容 次の事項に…

「国語科教育特論」発表ハンドアウト

本稿は、私が科目等履修生として聴講している早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻「国語科教育特論II」(担当:町田守弘教授)において、2010年1月14日に発表した際のハンドアウトです。 はじめに 日頃英語教育に携わっていて、「英語以前に日本語がで…

文法教育の現在(その1)

中央教育審議会答申に見る国語科と「ことばのきまり」 中央教育審議会の答申(2008年1月)では、「話すこと・聞くこと」、「書くこと」及び「読むこと」の領域構成を維持することが示されている。また、それまでの〔言語事項〕については、各領域の内容に関…

文化審議会答申について

「文学」と「言語」 文化審議会答申の中で国語科教育のあり方に関する言及もあり、そのなかで「文学」と「言語」の2分野に整理していく方向性が示唆されている。「文学」は情緒力の育成に主眼を置いたものとされ、「言語」は国語の運用能力の育成を主な目的…

文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力を身に付けるための方策について」(2004年2月)

第1:国語力を身に付けるための国語教育の在り方(1国語教育についての基本的な認識) 国語教育は社会全体の課題 国語教育は学校教育・家庭教育・社会教育などに通じる社会全体の課題 言葉への信頼を育てることが大切 日本人の多くが言葉の力を信じていな…

文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」(2004年2月)

覚え書きです。 第1:国語の果たす役割と国語の重要性 個人にとっての国語 知的活動の基盤を成す 感性・情緒等の基盤を成す コミュニケーション能力の基盤を成す 社会全体にとっての国語 国語は文化の基盤であり,中核である 社会生活の基本であるコミュニ…

母語獲得と外国語習得

ご案内 今回のエントリーは、以前のエントリーの内容の一部を拡充したものとなっています。 Chomsky(1966)の母語獲得モデル Chomsky(1966:20)は、人間の母語獲得を次のようにモデル化している。 primary linguistic data→[AD]→G primary linguistic data(一…

コクゴキョウイク1960

高等学校学習指導要領「国語科」の改訂をめぐって 1960年3月に「高等学校教育課程の改善について」が答申され、これに伴う国語科の学習指導要領改訂によって、「現代国語」が独立した科目として新設されることとなった。この年は国語教育の現代化にとって大…

国語教育におけるパラダイムの転換

モノローグからダイアローグへ 現在の学習指導要領では国語教育においても、「話す・聞く」力が重視されている。この背景には英語教育のみならず、国語教育においてもコミュニケーション能力の育成がキーワードとなっているためである。しかし村松(2006)によ…

日本の学者は解る論文が書けない?

「しゃべり軽蔑意識」 澤田(1983)は論文作法をレトリックの視点から捉えているが、日本人の学者が英語の論文をうまく書けない理由として、しゃべることへの嫌悪・軽蔑ということを指摘している。そもそも学者がうまく論文を書けないということが事実かどうか…

日本語の習熟と英語学習の開始時期

文化コンテクストとコミュニケーション 文化人類学者のE.ホールは異文化コミュニケーション研究に「高コンテクスト」(high context)と「低コンテクスト」の概念を導入した。日本文化は高コンテクスト文化であり、言語の役割が相対的に小さく、その場の雰囲…

第二言語習得研究と言語教育

第二言語習得における「第二言語」 第二言語習得研究における「第二言語」とは習得目標言語を指すものであって、社会言語学において「外国語」との対比において用いられる「第二言語」の概念とは別物である。しかし、いずれの場合においても「第一言語」すな…

英語力以前の「日本語の書く力」

自己表現の内容 英語の上達のためには、英語で考えることが重要であると言われる。これに対して杉田(1994:37)は、「日本語による表現能力や、会話をすべき内容もない人に英語で考えさせるのは無意味ですし、本末転倒です」と述べている。杉田はまた、知的な…

「国語力」が大事というけれど…

「すべての教科の基本」としての国語力 学校教育において、「国語力はすべての教科の基本」と言われることが多い。また小学校への英語教育の導入に反対する理由のひとつに「国語力の養成を重視すべき」という声が聞かれる。確かに日本国内の教育活動・学習活…