持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

2006-01-01から1年間の記事一覧

フレーズからチャンクへ

「フレーズ」について 「フレーズ」とは、英語でphraseと綴り、日本語では「句」と訳される。しかし、ここであえて「句」という用語を使わなかったのは、「句」という語が定義が曖昧なまま用いられることが多いからである。以下では、荒木・安井(編)(1992)を…

構文からフレーズへ(続き)

伊藤・山口による英文構造の体系的提示の試み 山口(1997)によれば、伊藤*1と山口は英文読解の基盤を構築する共同作業の中で、それまで品詞論と熟語的な表現が根幹をなしていた英文解釈法を改め、文構造の体系的な提示による一貫性のある方法を確立していった…

『英文解釈教室』の批判的検討―構文からフレーズへ

主語と述語動詞の把握 『英文解釈教室』(以下、伊藤(1997))では、英文を形から考えていく上で始めに行うことは、何が主語で何が述語動詞であるかを確認することであると述べられている。そして主語の把握にあたっては、「文にはじめて出てくる、前置詞のつ…

伊藤和夫 再考②

伊藤の読解文法 山口(1997)によると、伊藤は英語の文構造の分析と解明をしていく上で、Sweet, Jespersen, Poutsma, Curmeなどの専門書に当たっていたという。このことを裏付ける記述がある。 文中の1部を強調のためにIt is ... thatではさんで文頭に出すこ…

整序問題の参考書

この本は30年以上前に書かれた受験参考書である。しかし大学入試の整序問題の参考書としては、今でも十分に使えるものである。 ただし、文体が硬いし、表現も難解である。このため今の大学受験生に読みこなせるか、と考えたら難しいかもしれない。それでも本…

伊藤和夫 再考①

構文主義の成立過程 一般に「伊藤和夫」というと『英文解釈教室』のイメージが強く、英語を構文という視点から分析して解読していく「構文主義」の予備校講師と見られている。そしてこの「構文主義」の是非を巡る議論がいまだに絶えない。本稿では「構文主義…

国語教育における「読解」

PISAの「読解」と国語の「読解」との齟齬 経済協力開発機構(OECD)が2003年に行った「生徒の学習到達度調査(PISA)」によると、日本の高校生の読解力はOECD平均と同水準にとどまっている。平均というと悪くはないという印象を持たれるかも…

「コアイメージ」の理論と実践の書

NHKの「新感覚☆キーワードで英会話」や『Eゲイト英和辞典』(ベネッセ)で用いられている「コア」や『発想の英文法』(アルク)『チャンク英文法』(コスモピア)で用いられている「チャンク」という概念の理論的背景と、指導上の示唆を扱ったのが本書で…

チャンキング・メソッドとリーディング

チャンクとチャンキング 深谷・田中(1996)は、コミュニケーションの流れの中でのコトバ*1は、その流れの中で使用される断片が配列されたものと捉えている。より一般的な言い方をするならば、コミュニケーションにおける言語表現・言語理解の単位は「文」では…

中高教員と予備校講師の「自己研鑽」

中高教員の「自己研鑽」 中学校や高等学校の教員(正教員=教諭)になるには、一般に教員免許が必要になるため、教免法で定められた科目を大学の教職課程で履修することになる。とはいえ、教員採用試験は以前ほど学力重視ではなくなっていているから、高度な…

「パラリー派」と「構文派」のミゾをめぐって

両者の言い分 英文読解の方法論に関して、特に受験英語の世界で見られるのが、「パラリー派」と「構文派」の対立である。「パラリー派」とはパラグラフリーディングを身につけることを読解学習の中心に据える立場であり、「構文派」は「構文」によって英文を…

和訳はダメなのか?

大学入試に和訳が出ているということ 靜(2006a,b)では、大学入試の英語問題における最大の問題点は下線部和訳問題*1にあると指摘している*2。この問題点に関して、靜(2006b)から3つの論点を引き出すことができる。 入試に下線部和訳問題が出題されることの…

書き言葉の国文法とメタ言語能力

小学校低学年の子どもの文 高橋(1985)は、低学年の子どもが主語・述語の関係の整っていない文を書くことがよくあると指摘している。このような場合、子どもに文の構造を教えるためには「拡大の原理」が有効であると高橋は述べている。「拡大の原理」とは、文…

受験英語とは何か

受験英語の「流派」? 「先生は、どの先生の教え方で教えているのですか?」 この質問は一見すると、意味不明に感じられる。発言者は多くの場合予備校生で、発言の相手は予備校講師である。参考書を出しているような全国的な知名度を誇る大手予備校講師の「…

「作文書いたんだけど、これじゃ先生に叱られるかな」

http://d.hatena.ne.jp/terracao/おもしろいブログです。私個人的にはコミュニケーション能力やイデオロギーに関わる記事が特におもしろいと思います。英語教育に携わる者が忘れがちな、それでいて非常に重要な論点を提供してくれています。 是非、一度ご覧…

文理解と論旨の把握

内容をまとめる能力 学校国語*1や受験現代文では、傍線部解釈や空欄補充などの局所的な理解が求められる設問が多い*2。しかし、浜田(1996)が指摘するように、文章の論旨が明確に把握できなければ、内容の理解ができたとは言えない。浜田によれば、論旨を把握…

読解文法の定着

読解文法の理解 明示的で演繹的な文法指導は、暗記中心ではない方が望ましい。読解文法では書き言葉では使用頻度が低い文法事項を排除し、本当に必要な知識のみを扱うようにする必要がある。文法をFORM、MEANING、USEの3つのレベルで見た場合、MEANINGに関…

分かって、使って、感じ取る

英語は暗記科目ではない? 受験英語の世界は、教え方が「差異の戯れ」と化すことが多い(入不二1997)。このため「英語は暗記科目ではない」という発言が予備校講師によってなされることは決して不思議ではない。しかしこの発言を正しく理解している受験生は…

メタ言語能力

「メタ言語能力」とは何か 最近の言語教育・言語学習の言説において「メタ言語能力」という言葉に出くわすことが多い。大津(2006)ではメタ言語能力を「言語を意識化させる能力」と定義している。意識化とは、必ずしも文法用語を使って説明できることを意味す…

国語教育における文法教育と文法研究

日本語関連諸分野における対話の幕開け 日本語学会春季大会では「文法研究と文法教育」と題したシンポジウムが催され、国語教育・日本語教育・日本語学の各分野で研究に従事するパネリストが集まった。このシンポジウムの趣旨のなかで司会者の仁田(2006)は、…

意識学習

文法を教える教師、教わる学習者 英語教育のコンテクストの中で、従来から行われている文法指導の問題点にはすでに指摘されているものが多い。そのなかでも比較的浸透していないと思われる問題点が、文法をなぜ教えるのかをしっかりと認識している教師が意外…

「書くこと」の基本または根源

書く内容の重要性 日本語にしても英語にしても、文章を書くときには書く内容が重要であることは言うまでもない。英語で語彙・文法・発音などの知識を身につけても話す内容を持っていなければ、英語を話すことはできない。すると話す内容というのは、英語学習…

英語教師のための英文法

ゼロからのスタートではないのだが… 最近、英語を教え始めたのだが自分自身に英文法の体系的な知識がなくて困っているという声を耳にする。学習者としては英文法の全体的な体系を知らなくても、実際に英語ができるようになれば、それはそれで成果である。し…

受験英語の英文法―文法問題対策と読解文法

文法問題の問題点 大学入試の英語の出題を見ていると、現在でも独立した形式での文法問題が出題されている。大学によっては出題比率と合格ラインの関係上、文法問題さえ解ければ合格できてしまうことも決して珍しいことではない。こうした文法問題が出題され…

国語教育におけるパラダイムの転換

モノローグからダイアローグへ 現在の学習指導要領では国語教育においても、「話す・聞く」力が重視されている。この背景には英語教育のみならず、国語教育においてもコミュニケーション能力の育成がキーワードとなっているためである。しかし村松(2006)によ…

日本の学者は解る論文が書けない?

「しゃべり軽蔑意識」 澤田(1983)は論文作法をレトリックの視点から捉えているが、日本人の学者が英語の論文をうまく書けない理由として、しゃべることへの嫌悪・軽蔑ということを指摘している。そもそも学者がうまく論文を書けないということが事実かどうか…

「生活綴方」という発想(その1)

すべての教科の基礎としての国語力、英語力の基礎としての日本語力 「生活綴方」というと、教育史や受験日本史で出てくる概念・用語というイメージしか浮かばない人が多いかもしれない。しかし国分(1962)に見られるように、綴方はすべての教科の基礎としての…

主要部パラメータと日英学習文法

「鏡像」の例外となる現象 日本語と英語の語順が鏡像関係をなすため、岡田(2001)のようにXバー理論と主要部パラメータ(head parameter)に基づく説明法により学習者が日英語の語順の違いを理解しやすくなるという提案も出ている。主要部パラメータの設定値…

再び基本文型について

英語における「名詞+動詞+名詞」の重要性 英語学習の入門期においては自己紹介などの活動を通じて英語の文構造に習熟させようとすることが多い。しかし、この場合は人称代名詞の使用が不可欠であり、日本語を介した明示的文法指導を行う際に現実には使われ…

英語教師のための対照言語学

本書が拠り所としている理論的枠組みは必ずしも最新のものではないが、日本人英語教師が知っておくべき日本語の知識がかなりカバーできる本だと思う。どう著者の英文法を扱った著作と併せて読むといっそう理解を深められると思う。