持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語教師のための英文法

ゼロからのスタートではないのだが…

最近、英語を教え始めたのだが自分自身に英文法の体系的な知識がなくて困っているという声を耳にする。学習者としては英文法の全体的な体系を知らなくても、実際に英語ができるようになれば、それはそれで成果である。しかし教師としては、学習者に全体像を明示的に示すかどうかに関わらず、英文法の体系的な知識を一通り身につけておくことは必要である。
英語教師になるだけの英語力がある人の場合、文法力がゼロということは、まずない。中学高校である程度学んでいるであろうし、一般入試で大学に入学した人であれば、文法問題集で文法を学んでいる場合が多い。また教員免許を持つ人であれば、多少の英語学の知識も持ち合わせているはずである。それでも文法知識に不安を持つ人が多いのは、個々の文法知識が断片的であることと、文法現象そのものを知っていてもそれを自分の言葉で説明できないことの2点に原因がある。

日本語で書かれた1巻もののレファレンスグラマーから始める

体系的な文法知識を身につけるには、まず日本語の文法書を用意するとよい。1巻もののレファレンスグラマーである。基本的にはどの文法書でも構わないが、随所で参考文献に言及しているものが望ましい。広く利用されているものでは江川(1991)や安井(1996)がある。時間があれば、こうした文法書を一気に通読することもできるかもしれないが、実際は生徒相手に文法指導をしながら、教師自身も学んでいくという形になる場合が多いと思われる。その場合は、1学期なり、半年なり、1年なりで一通りの知識を身につけていくことになる。
上述の2点の文法書の他に、教師用と銘打った文法書も存在する。綿貫・淀縄・Petersen(1994)や2巻ものではあるが、安藤(1983, 1985)が代表的なものである。これらの文法書では文法知識の記述だけでなく、指導上のポイントなどにも言及されている。さらに安藤(1983)では、英語教師の文法研究の方法まで示されている。もっとも安藤(1983, 1995)に関しては、より包括的な1巻ものの安藤(2005)が出ており、こちらを利用するものいいかもしれない。

参考文献を参照する

上述の文法書を読んで、納得できない箇所や、より詳しく知りたい箇所、あるいは著者の分析に納得が行かない箇所に関しては、参考文献として言及されている文法書を参照することになる。この段階になると、かなり専門的な文献に触れることになる。特に生成文法の枠組みで書かれたものに対しては抵抗を感じる人もいるかもしれない。そういうときには用語辞典を利用するか、同僚などの言語学に強い人に聞いてみることも、当たり前ではあるが大切である*1

それでも納得できない場合

教師としての自覚があればあるほど、既存の文法書の分析や説明では納得できないところが出てくる。これは言語事実に反する説明があるということではない。文法書を世に送り出すような人たちは、長年文法研究に従事してきた専門家である。しかし、文法書に書いてあることを踏まえて教室で説明を試みても、生徒にうまく理解してもらえない場合がある。この段階になると、言語研究者に押しつけられた文法ではなく、英語学習のために最適化された「学習文法」が必要だという認識が芽生えてくる。教師自ら専門書にあたってよりよい文法を求めていくこととなる。このブログで主に扱っている議論もこのレベルのものである。*2

参考文献

*1:もし身近にいなければ、私でよければ質問にお答えいたします。プロフィールにあるメールアドレスからお寄せ下さい。

*2:[文法]というカテゴリーを選択すると過去の記事が表示されるので、参考にしていただければ幸いです