持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『良問でわかる高校英語』「別冊」の別冊(その6)

Chapter 2 動詞と文型(その2)

本書の文型論は、S+V、S+V+X、S+V+X+Xという3文型を出発点とし、動詞に後続するXにどのような品詞が続くかによって従来の5文型の枠組みで扱われている諸文型をネットワーク化したものである。そのうえで、文型は主に動詞の意味により規定されるという立場をとっている。このあたりは、例えばJackendoff(1990)の動詞の分類、中右(1994)の基本命題型、あるいはそれらを支える山梨(1995)の命題スキーマの考えから大きく影響を受けている。ただし、基本動詞については田中・川出(1989)などが指摘しているように、意味が弱く漠然としているものと考え、これらの動詞のみ文型が定まってはじめて意味が明確になると見立てた。従来の学習参考書では5文型を導入する際に基本動詞が用いられる例をふんだんに提示してひとつの動詞が複数の文型をとりうることが強調されることが多かった。もちろんこれはこれで厳然たる事実であるが、動詞と文型があまり関係ないという印象を学習者が持ってしまえば、文型の学習自体が無意味になってしまう恐れもある。本書では基本動詞の特殊性に着目することにより他の動詞と切り離して扱い、その上で一般論として動詞の意味と文型の間に一定の対応があることを述べることとした。
ここから、個々の文型の扱い方に移っていく。S+Vは最も単純な文型として冒頭で提示している。動詞の意味が文型を決めるという立場を取る以上、ここにも意味論的な動機づけがある。黒川(1986)はこれらの動詞が単純動作や自然現象を表すから目的語が不要であると指摘しており、本書もこれに従っている。もちろんこのことが、表す内容が自明すぎて修飾語なしで使われることが少ないという事実にも繋がってくる。小寺(1990)は、こうした事情が中学校で最初に扱う文型としてS+Vを導入することが困難になっていると述べている。ただし、本書は高校生向けの参考書であることと、副詞(句)の導入を前章ですでに済ませていることから冒頭で提示することとした。そのあとの2.2.の〈存在〉を表す動詞、2.3.の〈移動〉を表す動詞、2.4.の「話す」という意味の動詞といった項目は、見ての通り動詞の意味による型の分類である。このあたりは安藤(1983, 2005, 2008)などを参考にしている。

参考文献

  • Jackendoff, R. (1990) Semantic Structures. Canbridge, MA: MIT Press.
  • 安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店
  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社
  • 安藤貞雄(2008)『英語の文型』開拓社
  • 小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店.
  • 黒川泰男(1986)『英文法再発見・上』三友社出版
  • 中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店
  • 田中茂範・川出才紀(1989)『動詞がわかれば英語がわかる』ジャパンタイムズ
  • 山梨正明(1995)『認知文法論』ひつじ書房